契約②
「上には上がいる。断ってくれてもいいんですよ。命あっての
「断れない額のオファーを出しておいてよくも言う」
ポーカーフェイスでルナは嘆息した。相手のことも、その相手がどんなにうさん臭くても結局は金に
「では、契約を
「そんなに秘密にしたいのなら、試験会場は雀矢とは無関係の場所でやるべきだった」
「大尉さんの意見には
「そんな場所を使える人間はかぎられている」
「
「そのへんの人や企業が戦闘型ムニノンの適合者を試験官にはできないと思う」
そしたら、「ムニノンはアメリカで発見され、公表もされていないが、完全なる非公開は不可能だ」と、向こうもねばる。
「一般人は知らなくても、ある種の業界人にとっては常識。そんな話はごまんとあります。それに、技術は流出するものでしょ。ムニノンもまたしかり。米軍と、その関係組織の外にも、戦闘型ムニノンの適合者はいる。米軍の極秘機関から独立したインセクト・ケージ所属の大尉さんなら、よくよくご存じのはずだ。そんな大尉さんの実力を試そうと思ったら、戦闘型ムニノンの適合者をぶつけないとね。テストになりません」
ああ言えばこう言う男。
「
アダムの呼びかけに反応して出入り口の扉がひらかれていく。部下ふたりに
「本日はご苦労さまでした、本当にね。――ところでみなさん、日本には慣れましたか?」
「ヤード・ポンド法を忘れるくらいには」
もちろんこれは冗談だが、あながち嘘でもない。ルナたちは世界中で任務をこなす
くすりと笑ったアダムが先頭に立ち、受付以外は無人の一階ロビーを通りぬけていく。
外に出ると、いつのまにか強めの雨が降っていた。ルナたちが乗ってきた大型SUVは駐車場のすみに止めてある。広々とした駐車場だが、車は数えるほどしか見当たらない。
「あ――そうそう。もしものときの
アダムは
ルナたちが死ぬと決めつけている物言いに聞こえた。
なめ
「なら、よかった」と言い残して、アダムは立ち去っていく。雨にぬれてどこかさびしげなその背中をにらみつけながら、ルナも後部座席に乗りこんだ。
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