第5話 特に意味 ないけれど 肉を焼くのだ 前

 あれこれ異世界に行った僕だが、飯を食えない時もある。

 それは何故か転移してしまったり、強い意志で帰ることを望んだ時だ。

 と言っても、回数で言えば数えるほどである。


……けどまあ、調理中に異世界に飛ぶと言うの僕、初体験。


 僕はモルフォごと調理台やらBBQ台、あとガスバーナー等、調理器具一式と共に転移した。バエってか自己満足の為に、お肉や具材でいっぱいのクーラーボックスももちろんだ。

 周囲は一面の花、花、花。

 八重咲きの美しい品種だ。芍薬っぽいな、バラじゃなく。

 なんか何時かの結婚式の帰りに貰った花によく似てる。

 そんな現実逃避を思わずしてしまうほど、僕はヤバい場所に転移した。

 ここ、あれだ。

 段々、妙に豪華になってく謎の場所だ。


……ちらっと、横を向くとフリフリゴージャスなドレスの美少女。


 彼女はカップを片手に固まっている。

 僕も困った。

 なので正直に話した。

「ここは何処でしょうか? お嬢様」



■■■



 昼休みに、蕎麦屋で昼食を取りに行った時の事である。

 僕は天ぷらそばを頼み、テーブル席でテレビを見ていた。

 モルフォは通販で買わされたミニチュアの食事セット(カトラリー一式とテーブルセットである)を広げている。


……好みが分かれるので正義は主張しないが、僕はシナっとした天ぷらが、天ぷらそばの好みである。


 天ぷらのエビ、かき揚げ、大葉がそばつゆを吸う間の事だ。

 お昼の情報番組で、アメリカのBBQトレンドを放送していた。オートキャンプ場とか出演者の芸能人よりも、私はスキレットで豪快に作る甘いものに衝撃を受けていた。

「スキレットで甘いものもいいのか」

 何時ぞやドワーフっぽい髭もじゃ小人に貰って以来、オージービーフのステーキにしか使用してこなかったスキレット。

 目からうろこであった。

「おいしそうね~……ちょっと、コー! 冷めちゃうわよ、それ」

 そして、天ぷらはそばつゆに融け、私はちょっと反省した。



 そして、スキレットで甘いモノ熱は冷めることは無かった。

 元より独身、一人暮らし、そして一軒家持ち。そして明日から土日の金曜日。陰キャとしてBBQグッズを意図的に避けて来た僕であったが、熱が高まれば衝動買いしてしまった。

 そうして意気揚々とガレージ前でBBQと甘いモノを作ろうと――転移。

 なんでだろ? 旧車には触れてないのだけどな?

 あと、お嬢様。目がスゲエのですが。

 


■■■



 気だるい午後の事です。

 あの男が大きな妖精と共に我が屋敷の庭に顕れたのは。


……ええ、度肝を抜かれましたわ。魔法の発光を伴わず現れたのですもの。


 華を愛で喫茶を楽しむときに、唐突でしたわ。

 しかもあの男、なんて言ったと思います?

「ここは何処でしょうか? お嬢様」

 私が公爵家のものと知っての口調でしょうか?

 ぷち●ろしてやろうかしらと思いましたが、詠唱を試みる前に庭師と執事がすっ飛んで参りましたの。

「お嬢様! 抑えてくださいませ! 彼は精霊ですぞ!!」

 そう言う執事。

 庭師に至っては……

「あんなのでも! 土地神様です! 珍しい物くれるんですから!」

 そう言われ、私は男を見ます。


……シャツ、長ズボン、頭は何故かタオルを巻いております。


 どう見ても高貴さとは無縁。

 おまけに不可思議な道具を色々と伴っております。

 大きな箱、派手な炭台、そして不思議な筒や袋の数々。

 あと机の上には見たことのない……道具の数々。

 妖精を好きにさせている――もとい、馴らしていることからも尋常な手合いではないでしょうか。

 すると大きな妖精が、男に強請りました。

「コー、戻ろうよ。なんか感じ悪い人たちだから」

 妖精はそう男に言います。

 よくよくみればこちらに向かってアッカンベー。


……大きななりでも妖精です、イイセイカクしてます。


「ええ? 煙たいから外でやった方がいいと思うんだけど」

「ガスコンロだったら室内でも出来るでしょ」

 そして私を無視する男。

「何をするのですか?」

 自分でもびっくりするほど、冷ややかな声が出ました。

 だからでしょう、男が振り返り頭を下げます。

「あ失礼しました。ここで料理を、と思ったのですが帰りますね」

「……料理?」

 野外で調理とは物好きな男です。 

 私は帰るよう促そうとしましたが、執事と庭師が男の足に縋りました。

「お待ちを! せめて一皿!」

 貴族に仕える者としてはあるまじき姿です。

 父が見たらどうでしょうか――おや、父がものすごい勢いで走って来ております。

 どうしたのでしょう?

「精霊殿ぉぉぉぉぉぉぉおおお、吾輩にも一皿! 一皿だ!」

 必死すぎませんかね?

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