第3話 ホットだよ サンドして 食べたいアレよ
スバルのR1が僕の下駄車だ。
田舎あるあるで車がないと生活できない。
と言う理由と、趣味の車やらバイクを沢山持ってるせいで車庫が空かない。
なので普段使いはこれ一択である。
ガールフレンドがいたことがあるけれども、趣味の車はみんな最初は良くても次から乗るのをやんわりと断ったっけ。
「コーの世界には素敵な車が多いのね」
モルフォは助手席とダッシュボードを行ったり来たりしている。
運転中だが、見てるのもハラハラするからやめて欲しい。
「妖精がメカ好きって」
どうなんだろうか。
そう思って口にすると、ハンドル前方に座ったモルフォが答える。
「好きに決まってるでしょう? 細工もいいわ、パソコンもね」
ファンシーな妖精がメカメカやらサイバーなことを口にして僕はちょっとイメージを傷つけられた気分になった。
田舎道を流しているので、僕が百面相していても大丈夫なのだが、もしも対向車の人が気づいたら「アイツ変なことをしてる」って思うだろう。
「ならいいんだ。でもさ、買い物についてくる妖精ってどうなの?」
「そこは同居人だと思って」
自称旅人の癖にふてぶてしい奴である。
「僕と会う前はどうしてたんだ?」
そう言うとモルフォは黙った。
なんとなく想像がつくのだけれど、日本の家庭で盗み食いする妖精とかってイメージ棄損激しいんじゃないだろうか?
僕が黙ったことでモルフォは疚しさを思い出したのか弁明をした。
「こ、幸運のおすそ分けをしたんだから、大丈夫」
「うーん」
妖精だから許されるが、オッサンがやれば犯罪だろう。
そう言えば小さなおじさんなるネタもあったな。
つまらないことを考えていると、県道沿いのスーパーが見えて来た。
モルフォは周囲に見えないらしい。
今は子供のようにカートに乗って僕にあれこれ聞いてくる。
野菜や肉魚を買い出し中なんだけど、けっこう姦しい。
「コー、お菓子が良いと思うの」
ハンズフリーのイヤホンを持ってきてよかったと思いながら、僕は答える。
「おじさんだからちょっと」
甘いのが嫌いではないがメチャメチャ甘党でもないのだ。
そう言うとモルフォはむくれる。
「そーゆーところよくないわ」
「はいはい……視線が厳しいから静かに」
こんなにも、うるさい彼女。
だが誰にも聞こえも見えもしないようである。
そんなもんかなと思っていると、モルフォがベビーカーの乳幼児にガン見されていた。
「……ああ、そうゆうこと」
子供は純粋だなあと思っていると、ファンシーな住人は駄菓子コーナーの袋詰めコーナーに頭から飛び込んでいた。
彼女のアグレッシブな奇行に僕は頭を抱えた。
自宅に戻って来た。
昼前だし朝食をとってないこともあって、お腹は空いている。
特売で食パンを変えたので、ホットサンドでも作ろうかなと僕はキッチンへと向かった。
モルフォは僕の趣味の道具や作りかけのモノに興味があるらしく、今は外していた。
「さてと」
雑に出来るのがホットサンドの良いところである。
ただ僕のこだわりから、ちょっとだけめんどくさいことをしよう。
冷蔵庫から取り出すのは、鶏卵とハム、それから玉ねぎ、レタス、トマト。ささっと皮をむいた玉ねぎはスライサーで半分だけスライスし、トマトは輪切り。なおヘタと尻の周辺は細かく刻む。
あと新聞紙を何枚か濡らしてたたむ。
レタスはざっと洗って千切ると、放置。
「でっと」
サラダ油を、学生時代から愛用するホットサンドメーカーに垂らし、予熱してから中火へ。まずは卵を割り入れる。
本当は卵は常温に戻すらしいのだが、面倒くさいのでいつもやらない。
「とっとと」
じゅわあと待つこと数秒。それから僕はコンロからフライパンを持ち上げ、濡れ新聞紙に置く。
「痛むらしいんだけど……やっちゃうんだよなあ」
愛用品はぼろいので、躊躇なくできるのが素晴らしい。
で卵をフライ返しでひっくり返し、もう一度焼く。
「弱火にして……」
両面焼けたところで、更に目玉焼きを取る。
続きまして、トマトの刻んだ奴を油を足してから炒め、塩コショウ。
でフェンネルシードを少々、あと米酢、一味、砂糖、醤油を適量。
混ぜ合わせたら、これまた皿に取る。
「んで」
キッチンペーパーでホットサンドメーカーの汚れを取り、耳を落としたパンを二つ置く。トマト、玉ねぎ、ハム、レタス、目玉焼きの順に乗せ、ソースを片面に塗る。
そうしていると、香りに惹かれたかモルフォがやってくる。
「おいしそうね」
「食べるだろ?」
そう言って僕は手早くホットサンドを仕上げた。
普段はハムチーズなのだが、手間をかけてバインミー風だ。
くるくる表裏をひっくりかえして加熱し、あつあつのそいつを皿に取り、包丁で半分に……モルフォだとデカすぎるなと、僕は四等分する。
「出来たよ、よければどうかな?」
そう言ってキッチンのテーブルにホットサンドを置くと、モルフォは戸惑った。
「淑女にがぶりと行けって?」
「ソレが美味いんだよ」
彼女と僕の分のパックコーヒーを出して、僕もテーブルに着いた。
モルフォは……ちょっとまった。
「小さくなってないかな?」
「魔法ね」
ホットサンドを魔法で小さくすると言う暴挙をやっていた。
見れば食器もいくつか縮めたのか自分で用意していた。
「……魔法が切れて爆発とかしない?」
「そんなこと絶対ないわね」
あ、でも小さくするもの戻すのも毎回面倒だから小さいのが欲しいとわがままを言う。僕はこのふてぶてしい妖精の頼みを聞いたことを後悔したが、自分で選んだのである。
八つ当たりのように僕はホットサンドを齧った。
「うん……旨い」
「ホント、美味しいわ。ちょっと酸味があって」
モルフォも同意する。
そうだろ、そうだろ、野菜がシナってしてるのは好みが分かれるだろうけど味は美味いのだ。
サクサクの表面からぎゅっと詰まった中身、そして目玉焼き。
手間かかるけど、偶に食べたくなる。
「やっぱり私の目に狂いはなかったわ!」
そうモルフォは主張し、僕は苦笑した。
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