第9話 驚き
私の頭を全て覆う形で首元までしっかりとあるマスク。
元彼の健太も被せる時は苦戦していた。
私一人の力では、脱ぐのはかなり困難だろう。
それでも指が自由に使えるようになったので、必死に力を込めたが、脱げる感じはしなかった。
「沙織さん、潤滑剤塗ろうか、脱げやすくなると思うよ」
女性警察官の声にハッとして、手を止める。
そして、“お願いします“の気持ちを込めて頷いた。
女性警察官は首から顎の辺りを重点的に潤滑剤を塗ってくれた。
「私も手伝いますから」
女性警察官の助けも借りて、私はようやくマスクを脱ぐことに成功した。
目の前がかなり明るくなり、ぼんやりとした視界が広がる。
しかし、女性警察官の顔はハッキリとは見えない。
潤滑剤が内側のマスクの覗き穴を膜を張ったようにしていたから。
どちらにせよ、視界も悪いし、内側のマスクを外さないことには話す事もできない。
私は内側のマスクにも手を掛けて一人で脱いだ。
かいていた汗が、潤滑剤代わりとなり被る時も苦労しなかった事もあり、一人で脱ぐ事ができた。
模擬ペニスが抜けたので口は自由になったが、大量の涎が滴り落ちる。
さらに、長時間マスクで目を押さえられていたので、視界がボヤけたままだ。
しばらくすると、徐々に視界がハッキリとしてきた。
そして、回復した目で女性警察官を見て私は言葉を失った。
そこには、髪こそ短いが私とソックリの女性警察官が座っていたから。
口をポカンと開けたまま、固まる私に女性警察官が話しかける。
「どうしたんですか?錦織 沙織(にしきおりさおり)さん、あっ結婚したから東條ですね」
私は固まったまま動けない。
私ソックリの人が私の事を全て把握している事に。
その時頭を過った言葉があった。
【ドッペルゲンガー】
私の目の前にいるドッペルゲンガーは首を傾げてこちらを見ている。
確か、ドッペルゲンガーに出会ったら死ぬとか聞いた事がある。
“どうしよう“
私が震え出したのを見て、ドッペルゲンガーが話しかけてくる。
「私を見てビックリしたの?お姉ちゃん」
その言葉を聞いて私は何度も瞬きする。
「私の名前は麻生 伊織(あそういおり)、あなたの双子の妹です」
「お姉ちゃんは生まれてすぐ遠縁の親戚に引き取られたと、両親から聞いています」
「お姉ちゃんが近くにいる事を知ったのは、今橋 健太(いまばしけんた)がキッカケでした」
「健太は私とお姉ちゃんの区別がつかずに近づいてきて、今は私の彼氏なんです」
話がだいぶ見えてきた。
妹の伊織と健太はおそらく結託して今の状況を作り出したのだと。
取り敢えず、ドッペルゲンガーでもなかったし、警察からも釈放されそうだと分かると張り詰めていた緊張の糸が切れた。
遠くで伊織の声が聞こえていたが、頭も働かず、体も動かなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます