第31話

目を覚ますと、ミカエルは今夜泊まる予定のコテージのベッドに居て、同室の明は薄明かりをつけてベッドに起き上がって楽譜を見ていた。楽譜は黒く、ハ音記号が見える。ヴィオラのオーケストラパート譜か何かだろうか。枚数がかなりある。


「あ、起きた?お前痩せてるのに筋肉量あるし背も高いから重かったよ〜。

、、スタンツも心配してたよ。

でも、凄いね。スタンツとその荷物を背負いつつ、自分のリュック片手に持って複数のルートを見せてあげながら集合時間に余裕で間に合う早さで山道下るなんて。

、、さすがの体力とガッツ、、に計画力だね。」


穏やかなようで負けず嫌いな点もある明に皮肉を交えずに褒められたが、ミカエルの気分は明るくはない。スタンツに怪我をさせてしまい、まだ声も出ない。そして、ベッド沿いの窓のカーテンを少し引いて覗く外の風景はもう深夜だ。バーベキューはおそらく中止になり、明日朝には出発してベルリンに帰らなくてはいけない。

計画を全て実行し全員を楽しませられなかった。


「、、、明日さ、昼にバーベキューしてから帰ることになったよ。夜行列車も使って帰ろう。明後日から授業だからまあみんな忙しくなるけど、三人で話し合ったんだ。たまにはこういう羽目を外すのも良いよね。」


明は楽譜を閉じてナイトスタンドに置いてから話す。


ミカエルは内容に驚いて明を見つめた。

身体が弱い明や、アムステルダムから来てくれている彩華を心配して、明後日の必須の授業には余裕で間に合う日程でミカエルは計画を組んでいた。


「、、、明日昼まで寝るんだし、多分彩華たちもガールズトーク?ってやつしてるんじゃないかな。ドア越しに声かけてみよ。

、、ミカエル腹減っただろ?下のキッチンにバーベキュー用に食材があるけどあんなに使わないだろうし、なんか使って食べたら良いよ。」


明はベッドから立ち上がり、乗り気な様子で歩きながら部屋を出て行った。


ミカエルも汗と空腹が耐えられなかったのと、4時間ほど眠って回復したため、下の階に下がり、まずはシャワーを浴びた。


シャワー後、服を着替えて髪を少し拭きながら居間に行くと、三人がいつの間にか買ったのかビール片手にソファに座り騒いでいる。


ミカエルはそれをチラッと見てから、台所に行き、三人はすでに夕飯は食べただろうと1人分の食事を作ろうと準備を始めた。


「ミカエル。、、その、今日はありがとう。あたしの不注意で怪我したのに、おぶって行きたかったルート回ってくれて、、もう疲れてないの?荷物もあたしも重かったよね?、、ミカエルに元気になってほしくて来たのに、、あたしったらだめだね、、。」


ミカエルがパンと野菜と鶏肉を出して準備していると、コンスタンツェが歩み寄ってきてミカエルを見上げて言った。コンスタンツェが申し訳なさそうに苦笑いするのを見て、ミカエルは首を振り少し微笑んで、ケータイを取り出して文字を打つ。


「私が山に慣れてない貴女から目を離したのが行けなかった。自分が岩場につかまるためとは言えうかつでした。左足はどうですか。痛いですよね?

私はよく寝て元気です。」


ミカエルが訊ねると、コンスタンツェは微笑む。


「ゆっくり歩く分には大丈夫。ミケが早く正しく処置してくれたから。山登りに慣れてるから怪我の手当も素早いね。、、あたし家事は下手なんだけど野菜切るくらい手伝う!大丈夫。怪我しないよ、今度は。調理は下手だからミケがしてね?

あたしたちも夜食食べたいし、みんなで食べよう?あたしたちが2人に迷惑かけたからあたしたちで作らない?」

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歌を忘れても Canarie @Canarie

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