第24話

ミカエルは、通路側に座る自分の隣の窓際の席で、テーブルを挟んで向かい合う席に座る彩華や明と盛り上がるコンスタンツェの横で、地図や観光本をひたすら見ながら、たまにコンスタンツェと彩華が選んで駅で買っていた食事や菓子をつまんでいた。

普段から話すのは苦手だ。それは、この前、体調を心配されてから女性として気になり始めてしまったコンスタンツェにも、大学で1番気を許している明にさえそうだ。


幼いとき、母がまだ家に居て、厳しい父も今よりは険しくなかった頃は、もともと人よりは自分の興味関心に集中したいなりにも、友人はいた。なぜなら、自分は人から受け入れられると疑っていなかったし、家で母とよく話していたから人との話し方もわかっていた。

それが、9才の頃母が何も言わずに家から姿を消してからは、父は母によく似た自分に、暴力は振るわないまでも辛く当たるようになり、家にも深夜や早朝しかいなくなったし何日も開けることさえ多くなった。


だんだんに人との話し方が分からなくなった。

そんな自分を心配し、親身になってくれた執事のロベルトと、その妻や、フルートの恩師には良くしてもらったが、同世代との話し方は分からなくなっていき、父に好かれたくて学業やフルートで実績を上げれば上げるほど、周りからは悪口を言われ始めたし、父はミカエルを好きになったりなどしなかった。

それがミカエルの9才以降の11年間だ。


明はまたドイツに在住者が少ない日本人で、ヴィオラは学内でも認められる上手さだったが、ドイツ語も英語も下手で、人と話したくないし話すのが苦手な自分には都合も良かった。明の方も、語学が下手なだけでなく、優しいようで人と一線引く性格もあって、ミカエルに必要以上に話しかけずに思惑は一致し、ミカエルにとっては初等学校以来、初めてスムーズに自然に接することができる同世代だった。


明は人と一線は引く一方で愛想が良く人に溶け込む力もあり、ミカエルの周りには明のせいで人が増えた。初めは煩わしかったが、明に無理やり通訳しろと引きずられるなどし、人が基本的に嫌いな自分にも変化はあった。


でも、自分が人に好意を持っても却ってはこないと思う。今自分の目の前にいる明も彩華もきっと、こんな自分に飽きればどこかに行く。だから、コンスタンツェにも母に裏切られたときのような痛手を負うくらいなら近づきたくはない。ただ、厚意を受けたのは受け取るべきだと言うのもわかっている。


それで、今日のために綿密に計画を立て、今も声が出ないのを良いことに計画の修正が必要あるか最終確認をしている。

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