第22話
「シュルツ君、ポトフくらいなら食べれるでしょ?体調悪いなら食べないと早く治らないよ。
でも、、喉風邪の割には咳とかしてないね?
病院行った?
明も食べてね。」
コンスタンツェは、部屋の中で険悪になり目を合わせずに、各々譜読みしたり携帯電話をいじったりしている2人の間から、ポトフが入った鍋をテーブルに置く。
「風邪ではありませんから。
しばらく出ませんがそのうち治ると思います。
前もなったことがあるので。」
ミカエルがノートを開いて角ばったブロック体で書くのをみながら、コンスタンツェは2人の間に明が出したクッションに座り、ミカエルに頷いた。明はその間に冷蔵庫を見てオレンジジュースを出すと、自分とコンスタンツェの分だけグラスに注いで机に置く。ミカエルにはグラスすらない。
「ありがとう!!でもミカエルにあげて。あたしは勝手に上がり込んでるだけだし。」
コンスタンツェは、快活な微笑みで、ミカエルの言動にも2人の険悪な様子にも全く動じずに明に言ったが、明はコンスタンツェがミカエルのほうへ移動したグラスを自分側へ引き、再びコンスタンツェの前に置く。
「必要ないよ。元気だって本人が言うんだから、自分でジュースくらい注げるだろ。」
「明、、らしくない。そんなにいつも怒らないのに?」
「下らない喧嘩は好きじゃないからね。でも、人が心配してるのに失礼な奴なら俺だって不愉快だよ。」
明はミカエルに視線を合わさずに話し、先にポトフを自分の皿に盛る。
「シュルツくん、声出なくなったことが前にも?喉が悪いならきちんと診てもらった方が良いよ。、、シュルツくんはいつも活躍していて何でも出来てしっかり自立していて、、みたいな印象だったからびっくりだけど、、こんな毎回筆談じゃ、演奏のリハーサルもやりづらいだろうし、私シュルツくんとも声を聞いてもっと話してみたい。」
コンスタンツェは、先ほど書いて以降は返答をせずに自分の皿とグラスを出しているミカエルに立ち上がって近寄り、話す。
ミカエルは動作を止め、皿とグラスを手に持ったままようやくきちんとコンスタンツェに目を合わせたが、すぐにまたテーブル近くに座る。
「、、良かった、食欲はあるね。」
「、、人のこと無視するのやめたら?スタンツはお前とまだ仲良くもないのに気にかけてくれてるんじゃないか。」
明はみかねてミカエルに視線を合わせて言う。するとミカエルはなぜか明を鋭い剣幕で睨むので、明は思わずミカエルを見つめる。喧嘩しているわけだから怒るのはわかるが、普通ではない睨み方だ。
「私は別に声が出なくても構いません。余計なことを話さなくて良い分、トラブルもないし。
喉が悪いわけではないんです。
ストレスでごく稀になってしまう。
気にしてくれてありがとう。」
ミカエルは明への態度からがらりと代わり、コンスタンツェには無愛想なりにかすかに微笑んで筆談で返す。
「ストレス、、じゃあさ、ストレス発散しようよ。シュルツ君は練習するか本番かばかりだし、それじゃ、いくらなんでも疲れると思う。
、、あたしの友達で女だけど山登り好きがいてね、あたしもたまにハイキングくらいなら一緒にしてて。
シュルツ君も山登りが好きって前に明から聞いたし、シュルツ君ともっと話し、、あ、今は話せはしないけど、シュルツ君とも仲良くしたかったんだよね。また好きな文学や詩のことを意見交換したいな。
、、だから、例えばあたしとシュルツ君と、明と彩華さんとかで行けば良いよ!行こうよ。私も歩ける場所なら明も苦しくないでしょ?」
ミカエルは、コンスタンツェが彩華の名前を出したのに驚き、コンスタンツェを見て筆談し始めた。
「明のガールフレンドの彩華とは知り合いだったんですね?」
「だって、、たまにシュルツ君がいないとき明が部屋に連れ込んでるし。、、前にインタビューしようとしたら、」
「あーーっ!そ、その話は今は良いじゃないか。、、スタンツと彩華は直接話したことはないけどね、年は同い年だし気は合うかもね。彩華も喜ぶんじゃないかな。
、、俺は心臓のことがあって多分途中で疲れちゃうから、彩華と途中で抜けて待ってるかもしれないけどさ。
2人が散策から戻ったらバーベキューとかしても良いかもね。ミカエルはアウトドアも得意だろ?」
明は、ミカエルの様子を見てミカエルが自分に攻撃的だった理由が分かり、提案する。
自分と彩華が部屋でキスしたりいちゃついていたことに言及されたくなく、話もちょうど逸らしたい。
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