第17話

明は、ノックしてもミカエルは無視してフルートを吹いているので、自分もミカエルの部屋の前でヴィオラケースを開ける。


吹いているのは、フルートにもフランス音楽にも特に詳しくはない明も知っている、有名なプーランクのフルートソナタの1楽章だ。

臨時記号がついた、調性もリズムも複雑な旋律がドアの中から聴こえてくる。ミカエルがこの曲を吹くのは明は初めて聞いたが、普段のミカエルならやらないような激しい大袈裟な音量変化や不安定さが強調された演奏になっている。


テンポも普段のミカエルの分析的で計算された演奏の、計画的な変化とは違い、感じるママと言う感じで緩急がついている。


(へえ。普段と違うけどこれはこれで圧倒されるし面白いな。やっぱり俺も入っちゃおうかな。ピアノ譜は、、っと。)


明はドアから少しずれた位置に一旦座り、リビングにあったパソコンを借りてきたので起動して楽譜を探し出し、見ながらヴィオラを構える。


(ふんふん。なるほど。ピアノ譜も結構むずそうだ。

やっぱこういうのは合いの手のほうが楽しいよなあ。

ピアノ、親に無理やりやらされたわりには得意だったけどヴィオラやヴァイオリンほどやる気にはならなかったな。。でも伴奏ならやってみたい。大学ではもっと誰かの伴奏、ピアノでもやってみたいな。

あ、、でもアジア人で、多分ドイツの学生よりは下手な俺じゃ嫌がられるかな、う〜ん、、。

でもミカエルの伴奏ならやらせてもらえるかな。うん。まあ今後考えよう。)


明は久しぶりにピアノ譜を見て伴奏がやりたいなど展望を膨らませながら、今どう弾くかも考え、なんとなく考えが定まったため、ピアノの譜面を適宜ミカエルに合わせて弾きながら、ヴィオラで対応できない箇所はアレンジして弾き出した。


しばらく、2人は1楽章も真ん中あたりになるまで合わせていて、初めての割には上手くアンサンブルでき、明も気持ち良くなって弾いていたが、突如フルートが途絶え、ドアが開く。


「、、、、。」

ミカエルは不機嫌そうではあるが、起きたばかりの時のように明を睨みつけてはおらず、明の演奏に興味がある様子で明の手元とパソコンの画面を見つめる。


「あ、ミカエル。思ったより元気で良かった。

俺、夕方までにはさすがにベルリンに発つけど、、開けてくれないからさ。なら一緒に合わせちゃおうかなって。プーランクよく知らなかったけど良い曲だね。あ、、ヴィオラで弾けないところあってアレンジしたけど和声進行は変えてないよ?気に入らなかった?」


明がミカエルを座ったまま見上げ話すと、ミカエルは気に入らなかったわけではないらしく首を振り、パソコンをいじり始める。


「ん?何探してんの?、、フルートとヴィオラとハープ?、、そんな曲あんの??」


「ミカエル様。、、リビングで少しは召し上がりませんか。、、食べずに練習していたら体力が切れてしまいますよ。効率も悪いかと。」

ロベルトが2人がパソコンをのぞいていると、いつのまにか階段を上がってきて、ロベルトより若干背が高いミカエルを見上げ話す。ミカエルは頷き、パソコンを片手に持ち立ち上がった。

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