第18話

明とロベルトは、ミカエルがダイニングテーブルに着くなり、食事を猛獣のように凄まじい勢いで平らげるのを唖然と見つめる。


「すっごいな、、お前が良く食べるのは知ってたけど肉を前にしたライオンみたいだ。

、、まあ、あんな難しい曲ばかり大音量で殴るみたいに吹いてたら腹も空くか、、。」


明は自分も、ロベルトから出された軽食を食べていたが手を止めて話す。学生寮とは違い、ロベルトは明の食べる量がドイツ人とは全く違うのも考慮し調節して取り分けてくれたため、明も快適に食べられる量だ。味も学生寮の日本の学食から見ても数段階味が雑な食事より美味しい。日本のレストランには負けるが食べる喜びは感じられる味で、摂取するだけの無感動な味ではない。


「若様は細い割にはよく食べますからね。、、声はまだ出ないようですが、お身体が元気そうで安心いたしました。まあ、、ミカエル様は頑丈なのでそんなに心配はしておりませんでしたが。」


「ロベルトさん、お食事美味しいです。


、、この屋敷は広いし、、料理専門の方がいらっしゃるんですか?」


明が尋ねると、ロベルトは頷いた。


「ありがとうございます。

ええ。ここはリビング兼客間ですが、キッチンルームには家事手伝いが控えております。私は家令でございます。旦那様は銀行の関係者や経済界の方などをここへ呼ぶのと、お忙しく家事は致しませんので、家事手伝いと私がおります。


、、奥様がいらした頃は専任の料理人がいましたが、いまは旦那様も留守が多く、ミカエル様も独立しましたので,家事手伝いはパートタイム、私も日勤でございます。

これは家事手伝いが昨日作り、保管したものを出しました。本日は家事手伝いはお暇です。


家事手伝いは、料理の腕は良いですよ。」


ロベルトは説明する。


「へえ。凄いなあ。お金持ちの家って凄いですね。、、俺の家は演奏家の一家でした。貧乏ではなかったというか一応わりと裕福でしたけど、このお家みたいにお手伝いさんや執事はいませんでした。、、というか、お手伝いさんいる家始めて来ました。


、、ロベルトさんは、ミカエルが生まれた頃から?お勤めで?」


明はミカエルが一心不乱にあまり話を聞いてもおらず食べたり飲んだりしているのをちらっと見てから、ロベルトに訊ねる。


「左様でございます。

、、旦那様のご実家は古くは地主の家柄でして、私はそこ代々支えていた家の者でして。


、、、旦那様は次男であらされたので、お家を継がずに独立しまして。、、その際、旦那様付きの執事であった父はベルリンに来ました。若様がちょうど生まれる少し前に父は病気で亡くなり、、私が。」


(ふうん。。

あの感じ悪い親父さんにそんな経緯がね。

、、ってことは、、この人が実質、ミカエルを育ててくれたのか?

話だとあの父親は家にはあまりいないみたいだし、、

綺麗な広い屋敷だけど不自然に人の気配や生活感がないもんな。この人に金目の物の管理と、あの父親の秘書的な役割か運転手と、たまの来客対応と、、ミカエルの世話以外に仕事がありそうでもない。


、、こんな広い屋敷のこの広いダイニングテーブルに、ミカエルは小さい時からロベルトさんと2人で、、父親があまり帰ってこなくて、、母親にも蒸発され、、立派な食事を食べてきたんだ。、、、人と接するのが下手になって当然だな。)


ミカエルは明が部屋を見回しながら考えている間に食べ終わり、口をティッシュで拭ってから機嫌が先ほどより良さげな様子でケータイに何か打ってこちらに見せた。


「ん?、、いつ帰るかって?

、、17時過ぎの列車には乗ろうかな。

ミカエルはどうする?医者にはとりあえず明日は大学も休んで心身を安静に、って言われたんだよね?久しぶりの実家だろうし、、」

明がコーヒーを啜ってから尋ねると、ミカエルはケータイにまた何か打つ。


「まだ15時半ですから準備して私も帰ります。声が出ないだけで体調は良いですから暇だし、、。ロベルト。色々気遣ってくれて有難うございました。あなたも若くはないので身体に気をつけて下さい。

、、もし暇があれば、テレジアも一緒に是非ベルリンに来てください。案内したい面白い場所もたくさんあります。」


ミカエルは珍しく、微笑んでロベルトにも画面を見せる。


「お気にかけて頂き痛み入ります。

ですがまだまだ50代は働き盛りでございますよ。若様や明さんから見れば爺でありましょうが、、。

妻のテレジアも息災でございます。そのうちお訪ねさせて頂きますね。明さんの演奏も聴かせて頂きたく思います。


、、ご体調は宜しいとお見受けしますが、心や神経も休めることは必要ですから、、疲れたらお休みになってくださいね。

私にできることは限られますが、何かお力になれそうでしたらご連絡下さい。」


ロベルトも、自分より少し背が高いミカエルが立ち上がったのを見上げて立ち上がり、微笑んで話す。





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