第13話

「有難いお申出ですが、俺の家は比較的裕福でして。ドイツの金融商品については知識不足ですが、学費は困っていません。

、、名器もまだ俺には鳴らせないかと。

、、、それと、お名前を伺っても?何とお呼びしたら良いか分かりません。」


明が困惑していると、リリアを連れて去る前に、彩華が肩に手を置いてくれた。それで明は我に返り、一歩前に出てミカエルの隣に立ち、男性に微笑む。


「貴方は黙っていてくれませんか、私が父と話して、」


「嫌だね。、、俺にも関わる話なのになんでお前が話をつけるんだ。小さい犬がデカい犬に吠えるようなそぶりしてさ。、、みっともない。自分の世話してろよ。」


ミカエルが苛立った口調で明に言ったが、明は退かず、ミカエルにやや乱暴に返す。


「なっ、、私は、」


「、、ますます君に興味が出た。、、演奏だけではなく駆け引きも上手いんだね。私はディートリヒ•シュルツ。この銀行で一応専務をしているよ。」


ディートリヒは、名刺を出して明に渡し、握手をした。


「、、ありがとうございます。、、シュルツさん。ではもう一つチャンスを下さい。


、、、ミカエル、デュオをここでやろう。あれなら暗譜でできる。

シュルツさんに聴いてもらおう。、、どうするのさ?返事は?」


明は、何回かミカエルと演奏して学内外で好評だった古典派のフルートとヴィオラのデュオに言及する。


「無意味です。父はもう決めている。今日話して分かりました。。父なら私を退学させるのも容易い。今逆らえば、あなたにも何か被害が、」


「返事は??、、やってもやらなくても変わらないならやってみない?、、じゃあ俺は一人でも弾く!ミカエルが入るまで弾いてる、、。」


明はミカエルがいつもの調子を失い、怯えているのに無性に腹が立って、勝手にヴィオラを取り出し、構える。本来は先にフルートが出るが、自分が出る小節から独奏を始める。


「、、っ、、明、もうやめましょう、意味がない。」

ミカエルはフルートケースを肩からかけたまま、片手をケースのチャックにはかけながらも下げられずに明に言うが、演奏が続く。


「、、ミカエル、話は分かったか?

、、アジア人である彼は実力があるのに大変な思いをしているはずだ。、、今のドイツではまだアジア人は少数だからね。、、お前がこちらにくれば彼を助けられる。、、私も協力する。、、わかってくれたなら今晩家に来てくれ。食事しながら今後のことを話そう。」


「、、、、。」


ミカエルは父の言葉でさらに追い打ちをかけられ、父について行き出口まで歩いたが、当の明が父の言及にも動揺せず、しっかりとぶれない演奏を続けるので、足を反対に向けた。


「、、父さん、、お話はわかりましたが、最後に聞いてください。私たちの実力を買ってくれるならチャンスを。つまらなければ帰って頂いて構いません。」


ミカエルは明の隣までかけて行き、急いでフルートを出して音出しもせずに構える。





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