第11話

「父が銀行経営者なのですが、、

私を自分の会社に就職させ、いずれ自分の後釜にと考えていました。

、、だから私は家を飛び出し、、フルートで生きて行きたかったので、特待生で音大に入学して、生活費もバイトして、、父に頼らずやって行くことを決めて、実際にそうしてやっていきました。

父とはもともとソリも合わなくてね。

、、確かに普通なら実家に帰らなければ済む話ですが、父はなかなか強引でね。私が帰ってきたのを知ればコンサート終わりに都合をつけてやってきて、家に来させようとするかもしれません。」


ミカエルは、二人で横断歩道を渡りだすと、ようやく話し出した。アンサンブルのメンバーは最近出会ったばかりであまり家庭事情なども話したくなかったのだろう。それくらいは、生まれ育った国や文化、話す母国語が違い、考えかたにかなりの差がある自分にも分かることである。明がそう思い、ここまでミカエルを追いかけた甲斐はあったらしい。


「お父さんか。お母さんは?お母さんも反対してるの、フルートをやるのを。」


「、、母はいません。小さい時に離婚しまして。」


「、、!!、、そう、だったのか。ごめん、無神経に聞いて。」

明は、ミカエルのあまり明るくない横顔と、明に視線を合わせずに話す様子から、ソランジュの「ミカエルは孤独だ」と言う言葉の意味がわかり、思わず謝る。


「、、別に構いません。あんな断り方をしたら気になるのも当然でしょうから。」


「、、アンサンブルの本番がダメになりそうだから訊いたんじゃないよ。

何ができるかわからないけど、力になりたいんだ。

、、お父さんが来たら、俺もミカエルとは一緒にいるようにするから上手く追い払うよ。

俺、ドイツ語下手じゃん?辿々しい感じで色々話を振って困らせてみようかな。」


「、、、父は私以上に厳しい雰囲気ですが、そんなに簡単に話せるんですか、第一そんな荒唐無稽な策が効くのか、、。下手に刺激しない方が良い気がします。やはり私はフランクフルトには行かない方が、」


「、、ミカエルが俺が差別されたときに上級生につっかかったのもなかなか無謀だったし、良い勝負だろ。

俺の方がストレートなやり方じゃないだけだよ。

、、最悪、お父さんの前で演奏してやろう。

どうせ音楽に反対してるなら終演後にしか来なくて聞かないんだろうけど、、ミカエルがフルーティストになるべきなことを分からせてやろう。

ミカエルが珍しくミスしても、俺たちがフォローするから安心して。」


明は、自分でも話しながら不安ではあったが、らしくなく、ミカエルが弱気な様子なのが見ていられず、提案する。


「、、そこまで言うなら、、、わかりました。ただ、私はミスしたりしませんから。あなたこそきちんと弾いてくださいね?」

ミカエルは、明の何度も説得する様子に呆れながら、凝り固まっていた気持ちを崩されて頷いた。

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