第20話
「父が私が小さい時、教養のためにオーケストラコンサートに連れて行き、母も一緒だったのですが、母がフルートの音色が好きで、家でもたまにフルートの演奏を聴いていました。
、、私自身もフルートはやりたいと思いましたが、、吹けたら母も喜ぶし自分も楽しいかもしれないと、、それで始めたんです。」
「そっか。、、、良いね。俺は親から強制的にヴァイオリンやピアノやらされただけだから。素敵なきっかけだ。」
明は内心、いつも冷静なミカエルの傷心ぶりを見て、コメントに困っていたが、微笑んで言葉を選びながらなるべく明るい調子で話す。
「、、フルートは8歳で始めました。フルートは最初から得意ではありましたが、、1年程度では限界もあります。父にはやはり完璧を求められました。それに、私自身フルートは好きだったのできちんと吹けないことが悔しかったのですが、、落ち込んでいたら母が別荘地に連れ出してくれて。
、、そこにカナリアがいました。。。
、、、私みたいな鳥だと母はよくわからないことをいいました。似ても似つかないのですが。
自然の中で鳥たちを見てくつろいで、、そういう時間もきっと演奏に生きる、とも言って励ましてくれた。」
ミカエルは涙がこぼれ、顔を白く大きい手で覆う。
「、、そっか、、。
カナリアって、、俺も日本からドイツ来てからはたまに巷で見かけるけど、、レモンイエローなんだけど毛が部分的に白い個体も多いよね。ミカエルはプラチナブロンドだし、、確かに言われてみると似てるかも?
囀りも綺麗でフルートみたいだ。
このガラスのカナリア、可愛いね。」
ブリギッテの言葉の真意はわからないが、カナリアのガラス細工とミカエルの髪色を見比べながら明は話す。
「それは受け取ります。貴方に持たせても、あなたが私の負の感情まで背負うことになる。私は母に見捨てられた。だから彼女は憎いですが、それを買ってくれたときまでは私に愛を持ってくれたのは事実です。
初めから愛されなければ捨てられても辛くなかったのにと思っていましたが、母から少しの間でも愛を受けなければ私はもっと歪になっていた。
それにフルートもやらなかったか、やめていたかもしれない。
渡してくれてありがとう。」
ミカエルは涙を拭ってからいつもの調子に戻り、ケータイに打って見せた後、ケースごとカナリアのガラス細工を受け取った。
「、、そうだね、良い思い出まで否定していたら、人生なんか楽しくないことのほうが多いのに余計楽しく無くなるよ。、、だからこれは受け取ってもらって良かった。
、、でもさ、ブリギッテさんはミカエルを今回もとても心配していた。飴の瓶を買うほどにさ。
、、、認めるのはきついかもしれないけどさ、
きっとブリギッテさんはミカエルを愛しているけど、ミカエルより自分を優先したんだよ、、ブリギッテさんは弱かったんじゃないかな。
、、、事情を知らない俺の妄想かもしれないけどさ。
それに、、ブリギッテさんやディートリヒさんがミカエルを嫌いでも、、ミカエルがこれから人間関係を作っていけば良い。なんとかなるよ。」
明は、カナリアのガラス細工を見つめながら、まだ泣きそうな顔をしているミカエルを見かねて優しく声をかけた。
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