第4話

図書館の帰り、ミカエルは本を半分持ってくれてはいたが、先ほどの上級生に明が折れたのが気に食わないらしく、明が話しかけても無視をして先を歩いていく。


「俺は悪くないと思ってるよ。、、ミカエルも正しいし俺も正しい。。」


明は足を止めて、寮の部屋までの途中でミカエルに言う。ミカエルは言葉の内容に険しい表情で振り返り、ようやくこちらに近寄ってきた。


「ハハ、、何を言うかと思えば、呆れた、、。

どっちも正しい?正反対の主張が?あり得ないです、そんなことは。」

ミカエルは微かに嘲笑して言う。ミカエルは、これまで、明がどんなにドイツ語が辿々しくても、学内生活から国内での交通手段の乗り方まで、レベルの低い質問をしても少しも呆れるような態度は見せなかった。それだけ今の明の発言が不愉快だったのだろう。


「あり得なくない。俺がドイツ人をわからないようにミカエルだって日本のこと知らないし。知らない場所ではルールが違う。グレーが妥当な場合もある。」


明は日本人としては慣れないボディーランゲージまでつけながら、10センチ以上背が違うミカエルを見上げて主張する。


「あなたは差別が正しいと??」


「そんなこと一言も言ってない。

、、けど、あのままミカエルが正論だけぶつけたら俺もミカエルも殴られてたかもしれない。

あの図書館員の助けは期待できないんだから。

正しいければ殴られても良いのかよ?」

明は、こちらも日本人としては慣れないが、目一杯に顔を顰めて訴えた。しかし、ミカエルは首を振る。


「良いですね。間違ったことを認めるより私には良いですが。」


「俺は嫌だね。

、、庇ってくれたのは嬉しかったし助かったよ。友人だと言ってくれたのも。本当にありがとう。

、、、でも、あんまり聞き取れなかったけどさ、あいつら、学内選抜オケで一緒なんだろ?


、、あんなに突っかかって上手くやれるか不安だ。」


明は話が通じないのが分かり、俯く。


「別に私はいつもああやって意見していますよ。それにうまくやる必要なんかない。きちんと演奏すれば良いだけで。」


「そう。ミカエルはそうでも俺は違うね!

お前みたいにドイツやヨーロッパで音楽的な実績や人脈があるわけじゃない。ああやってアジア人嫌いな奴に妨害される。

ドイツ語も英語もよくわからない。

まずは周りとうまくやる必要がある。例えばヴィオラがいくら弾けたとしても、、ヴィオラはフルートみたいにソリストになるキャリアにはならないから余計に、、周りとうまくやる必要があるよ。」


ミカエルに淡々と言われて、ミカエルの想像力のなさに驚きながら、明は辿々しいながらもドイツ語でできる限り伝える。


「ミカエルじゃないか。噂の日本人の新しいルームメイトかな?」


2人が口喧嘩していると、向こうから小太りの壮年の男性教員がやってきて、明は驚いて彼を見つめる。




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