第3話
明が図書館でドイツ語の教本やその他の本をいくつか借りている間、ミカエルは図書館の外で足を組んで木に寄りかかり、明を待っていた。
ミカエルは、明の小柄な体格では多くの本を1人で抱えるのは大変そうなのと、彼のドイツ語が辿々しいのが少し気にかかっている。だから、借りる手続きに付き合うか申し出たが、温厚そうな見た目に反してプライドが高い所もある明は、自分1人で出来るからと断ってきた。
並んだのは4番目だったはずだが、20分経っても出てこないので図書館に足を踏み入れると、
入り口付近にすぐ近いカウンターのそばで、明が本をばら撒いて転んでいるのでミカエルは驚く。
「明??どうしたんですか。やっぱり私も手伝ったほうが良かったのでは。」
「ありがとう!大丈夫だよ、ちょっとぶつかっただけだし。、、すみませんでした。」
明はぶつかったらしい白人の男子学生2人に言うが、2人は振り向きもしなかった上、ミカエルの角度からは2人が嘲笑してから明が並んでいた箇所に入るのが見えた。そして、それを大して忙しくもなさそうな図書館員が注意もしないので、ミカエルは本を拾うのを手伝うのをやめ、2人に近寄る。
「失礼。そこは私の友人の彼が並んでいました。、、それと、彼はぶつかる位置には並んでいなかった。でもぶつかったのは謝っています。返事くらいしても良いのでは。」
「ミカエル、良いって!!、、、多分上級生だろ、その人たち、、トラブルは避けたい。」
明はミカエルが自分たちより2学年以上年上に見える白人2人に、厳しい表情と口調で言うのを見て、慌てて止める。
「明。あなたは表情と結論が度々違うので私には不可解なのですが、嫌ならいや,おかしいならおかしいと言わなければドイツでは伝わりませんよ。
、、先輩がた、確か大学の楽団でご一緒ですよね。」
明は、ミカエルの鋭い瞳で睨まれて迫力に気圧されて黙り、仕方なく本を拾いつつ様子を見守る。
一方、ミカエルは名前は忘れたが、それぞれ副コンマスと金管のメンバーである上級生に詰め寄る。図書館員は相変わらず我関せずだ。
「、、フルートのミカエル•シュルツだよな?
へえ。同じオケにいる一応はパートの首席の上級生の名前も覚えてないのか。さすが、特待生でコンクール総なめの実力者は違うな。」
「私については今、話していません。それに演奏に歳も首席かどうかも関係ない。
そして、そこは彼が並んでいました。交換してください。」
ミカエルはドイツ人としてはあまり背が高くないが、自分より体格が良く、背が高い2人を相変わらず強気な態度で見て話す。
「ここってこの人が並んでいましたっけ?」
金管の上級生が図書館員に尋ねる。図書館員は見ていなかったと答え、前後に並ぶ学生は関わりたくないのか何も言わない。
「ほら。お前の気のせいだよ、シュルツ。
それと、人の名前くらい覚えたらどうだ?」
「、、よくわかりました。あなた方が人種差別主義者だと、ヴァイオリン科のベルナルド先輩に相談しておきますね。今度一緒に室内楽をやる予定で会うんです。
、、それと、明は来期からうちのオケに入るんですよ。ヴィオラでね。その時、くだらない差別心で演奏を作るのに集中できないなら私も迷惑ですから。対策を取らせてもらいます。」
ミカエルが卒業生で、有名オケで弾いているベルナルドの名前を出すと、2人はたじろいで、言い訳をして列を開ける。ベルナルドはたまに学内選抜オーケストラの弦楽器セクションの指導にも来ている。
「何だよそれ、別に差別とかじゃくてさ。列が空いてると思ったんだ。シュルツは真面目だから冗談が通じないな。、、アキラ、さん??
ぶつかって悪かったよ、俺たちはまだ見たい本もあるし、どうぞ。」
ヴァイオリンの学生の方が言うと、金管の学生は不愉快げではあったが、明が本を拾うのを手伝う。
「い、いえ、、ありがとうございます。こちらこそすみま、」
「明。必要以上に謝ると、日本はどうか知りませんがこちらでは損しますよ。さっき謝ったのだから要りません。それと、列を抜かしたのも謝ってくれませんか。」
ミカエルは引き続き2人を睨んでピシャリと話す。
「ミカエル、もうやめろって!!
、、、ありがとうございます。あとは俺が自分で拾います。、、今後お会いすることがあったら宜しくお願いします。日本から来た中本明です。」
上級生たちが、ミカエルの強気な態度に表情を険しくするのを見て、明は危険を感じて2人に微笑んで自分から名乗って、ミカエルに本を少し持たせて立ち上がり、握手に手を差し出す。
しかし、上級生たちは一応は微笑んで頷いたものの、握手はしてくれず、書庫へ歩いて行く。
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