第2話

「あのさ、その、、明日荷物が一気に届き始めるんだけど、迷惑じゃないかな?共同の部屋なのに狭くなるだろ。俺が授業受けるのは来月からで二週間暇だし、早く退かすようにするね。

悪いね。。」


明は、寮に向かうまで全く話さずに黙っているミカエルに気まずくなり、荷物のことを思い出してミカエルの横に並んでミカエルを見上げて話す。


「私は授業や練習がありますが、休み時間や空きコマで良ければ少しは手伝いますよ。

あなたは身体が小さく痩せすぎていますし、、」


ミカエルは明を振り返って、立ち止まってから話したが、すぐに言葉を切り、考えるようにしばらく黙る。明は疑問に思いミカエルに尋ねる。


「手伝ってもらえるの?ありがとう!!

、、体格はまあ、、確かに貧相だけど、それがどうかした?」


「、、学生課から、あなたは心臓が悪いと聞いていて。無理して倒れたりしても良くないでしょう。

個人情報を聞いている以上、そこに配慮する義務が私にはあります。

、、それ、持ちますよ。

良く考えたらヴィオラケースも大きいので、スーツケースまであると歩きづらいですね。

私は今殆ど何も持ってませんし。」


ミカエルは明が片手で引いていたスーツケースを軽々と自分に寄せると、先に歩いて片手で引っ張る。すらっとしているが見かけより力があるようだ。


どうやら、ミカエルは冷たいのではなく、明の考えや感情を彼なりに考えていたらしい。

明の持病については知っているが、明を病人扱いすることに躊躇っていたようだ。だから敢えて歩調を合わせたり、荷物を持ったりなどしなかったのかもしれない。

必要なければ話さないほど無口なので接しづらいが、無愛想なだけで優しい性格のようだ。


実際、ミカエルの気遣いは的外れとは言えない。日本で体調が悪かった時期、母親や友人等にいちいち何をするにも心配され、手を出されたときは、腫れ物扱いされているようで情けない気持ちになったこともある。


「、、、色々考えてくれたんだね。

、、体調は、最近は落ちついてるから今は大丈夫だけど。、、荷物は持ってくれたら助かる。」


明はまた後ろからついて行きながらミカエルに話しかける。今も、長距離を走ったり激しい運動は避けるように言われているが、人並みに歩いたり走ったりする分には苦しくなることはない。


「寮はまっすぐです。まずは荷物を部屋に置いてから、音楽学部や練習室なども案内しますね。」

ミカエルはこちらをチラリと振り返って話すと、先にスーツケースを引きながら歩いて行く。

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