第3話 探し回るミスラ

「どこにもいない...どこ行ったのよあいつ!電話も出ないし!」


 冒険者協会の前でキレている少女ミスラ、いつもの時間になっても相棒であるソル・アズミヤが来ないため電話をしても繋がらないことに不信感を覚えた彼女は冒険者協会を訪ねると報酬金と共同物資を全て置いてどこかに行ってしまったらしい。

 連続で通話とメッセージを連打しながら街中を走り回って探したが一向に見つからない。


「あいつが出て行った?私から?あんな陰キャぼっちアメーバが?あたしが居ないとろくに人と話もできないのに?はは、ありえない...ありえないから...あいつあたしが居ないと依頼も受けられないのに...」


 彼女はありえないと繰り返しながら引きつった笑いを浮かべる。

 ミスラはソルという人間をよく知っている。それもこの世界で一番詳しいと自負しているほど。

 一人で買い物も依頼の受注も仕事もできない彼が自分のもとから去っていくなんて考えられない。

 そんなことは断じてあり得ない。


「意味わかんない、なんでどこにもいないの?なんで通話もメッセージも反応ないの?」


 まさか命にかかわることが起きたのかと一瞬考えたがすぐにそんな考えは払拭する。彼は私生活こそどうしようもないアメーバ野郎だがこと戦闘に関しては大抵の人間や魔物に負けることはないと断言できる。


「せっかく今日は何か奢ってやろうと思ってたのに...」


 今思い出してもムカムカと腹の虫がおさまらない昨晩の出来事。

 昨晩ソルと別れた後に面倒な連中に絡まれてしまった。

 勇者を目指している新進気鋭の冒険者パーティー、これまで何度も勧誘を受けていたがリーダーが気にくわない上に大人数で動くのは嫌いなためずっと断ってきたのだが昨晩はかなりしつこく勧誘された。

 あまりに面倒なので黙って聞いているとあいつらはついにソルの悪口を言って笑い始めたのだ。


「確かにあんたの言うとおりかもね」


 性格が悪いとかではなく、単純に何をさせてもどんくさく悲観的で鬱陶しいことこの上ない時がそこそこあり、気が短い人間だとイライラすることが多々あるだろう。

 正直な話リーダーの評価も頷けるし、世間から見てみればこの評価は納得だ。ミスラ自身ソルに対してクズだバカだと暴言をよく吐く。


「あいつは常に気を付けるとか、ごめんとかしか言わないし、何か言いたいことがあるのに言わないし、常にウジウジしてて腹が立つわ。ほんと、どうしようもないやつ...だけど」


 その瞬間ミスラは相手のリーダーの顔面を鷲掴みにして持ち上げる。

 180cmを越える体格の彼女に捕まれたリーダーはジタバタと暴れるが足が地面から離れていることとミスラの腕力によって逃れることができない。

 メリメリと彼の顔が嫌な音を立て始めた時メンバーが助けようと動こうとしたがミスラの眼力に完全に腰を抜かしてしまい動けずにいた。


「あいつのことを何も知らない癖にゴチャゴチャ言わないで。。あたし以外があいつを馬鹿にするのは我慢ならないのよ!」


 ミスラは男を叩き付けると男は物凄い音立てて壁に埋まった。

 今まではただ絡んで来るだけだったから見逃していたが、ソルのことを面と向かって貶されては黙っていられない。


「あんた達もソルのこと笑ってたわよね」

「ひっ!!」


 怯んだメンバーの男に強烈なハイキックで昏倒させ、魔法使いらしき女の腹部にボディブロウをお見舞いしてやった。


「あとはあんただけ」

「ちょ、ちょっと待ってください!すいません、ほんとすいませんでした!」


 メンバーの一人がミスラの恐怖に耐えきれずその場で土下座しながら許しをこう。

 しかし、ミスラはそれほど甘くはなかった。

 突然ミスラの影が大きくなり見上げると、その場に路駐していた大型バイクを振り上げる彼女の姿が見えた。


ケチつけてんじゃないわよ!」


 バイクは無惨にも叩きつけられた。

 ちなみにソルとミスラは付き合っているわけでは無い。

 ミスラ自身無意識で口走った言葉に一瞬顔を赤くするがすぐにそれを払拭する。


「あたかもソルが弱いみたいに言うけど、あんた達程度ならあいつ一人でも充分よ。ソル・アズミヤはぼっちで陰キャで挙動不審でバカで童貞だけど、あんた達よりはよっぽど強いってことを覚えてなさい」


 ミスラは吐き捨てるように言ってその場を去った。

 ちなみにバイクの持ち主には元値の倍額払ったらしい。

 そんなことが昨晩あったため今日くらいは優しくしてあげようと思っていたのにこのありさまだ。


「たくっ、ちょっと優しくしてやろうと思ったらこういうことするんだから...」


 色々考えた結果、何か頼みごとをされて断れないままどこかに連れていかれてしまったという説が一番納得ができる。返信がないのは電話が壊れたか本体の魔力が尽きたかどちらかだろう。

 そうに違いない。

 そうやって無理やり言い聞かせて仕方なく今日は一人で依頼を受けに行くことにした。

 帰ってきたらいつもの倍は説教してやると心に決めて。

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