第7話 麻薬栽培

 そんな、禅問答を繰り返している世界の中で、原住民を奴隷、いや、人足として連れ去られていった世界に残ったものは、過疎状態と本来であれば、ゴーストタウンなのだろうが、街自体が存在していなかったのだから、荒れ果てるわけのない、元からあったジャングルが残っているだけだった。

 核開発競争の中で、

「建物だけはそのまま残るが、生物はすべて死滅してしまう」

 と言われる、中性子爆弾という発想があった。

 そもそも、原爆などの核爆発で、一番最初に発せられるのは、中性子だという。建物は壊さないが、爆心地で最初に被害にあった人間が即死するのは、この中性子にやられるからだという。

 つまり、その中性子だけを放射できれば、建物はそのままに、生物だけが死に至るということになる。

 そこでは、爆風も熱戦も、他の放射能も発散させないということであろうか? それこそ、

「究極の核兵器だ」

 と言えるのではないだろうか。

「国破れて山河あり」

 ということわざとは、実際の意味は違うが、それまでの兵器は、

「国が敗れれば、山河も残らない」

 と言えるであろう。

 特に二十世紀以降の戦争においては、戦争が起こ手ば、そこには廃墟しか残らないということであった。

 昔の戦争では、戦闘が終われば、わざと、その場所を焼き払うということが行われた。その理由としては、そこに残った兵器や食料などと敵に奪われるのを防ぐためということで、いくら自国の土地であろうと、徹底的に破壊したうえで、撤退するというのが、当たり前のことであったのだ。

 原住民とすれば、これほど理不尽なことはない。勝手に入ってきて、勝手に戦争して勝手に焼き払われる。

 もっとも、焼き払われなければ、敵が入ってきて、強盗、強奪、強姦と言った、極悪非道な目に遭うのは分かっているので、まだ、焼き払われるくらいの方がマシなくらいだっただろう。

 それが戦争なのだ。

「戦争というのは、一体何を目的に行うものなのか?」

 これも一種の、

「禅問答ではないだろうか?」

 考えれば、

「国家の治安を守るため」

 あるいは、

「侵略から守るため」

 なのであろうが、世の中がっすべて戦争である時代であれば、専守防衛だけではなく、こちらから攻めるということも十分にある。

「攻撃は最大の防御」

 というではないか。

 スポーツや、昔の戦争などでは、先制攻撃が美徳だったりする。これこそ、戦争における、戦術の一つである。

 だが、戦争というのは、選手宣誓に入ってしまうと、籠城などという戦法もある。実は籠城というのは、追い詰められているように見えているのだが、実際には攻める方がはるかに難しいのだ。

 それが戦争であり、戦略と言われるものだ。

 しかし、実際には、建物が残っていたとしても、そこに人や生き物が存在していなければどうだというのだ。完全に過疎化してしまった中において、何ができるというのか?

 建物だって、人が住んでこその建物であるのだから、

「人がいなくなったのであれば、他から連れてくればいい」

 と言えば、確かのその通りなのだが、

「だったら、人を滅ぼす必要があるというのだろうか?」

 ということになる。

「他から連れてくればいい」

 という発想は、完全に的外れで、本末転倒なのではないだろうか?

 確かに戦争なのだから、

「相手を戦闘不能にすることが目的だ」

 というのであれば、人を殺すだけではなく、建物も壊してしまわなければいけないだろう。

 戦争というものは、完全に勝敗が目的である。だが、相手を完全に滅亡させてしまう必要はないのだ。相手が、

「降伏します」

 ということで、負けを認めれば、それで終わるのだ。

 ただ、その時、こちらも、壊滅状態であれば、勝利したとして、どうなるのだろう? 相手から賠償金を得たり、土地を奪ったりすれば、復興できるのだろうが、それは戦争前に目論んでいた勝利とどれだけのギャップがあるのかということが問題だ。

「戦争など、しないに越したことはない」

 というべきなのだろうが、しょうがなく戦争をして、果たして、国土崩壊の一歩手前での、薄氷を踏む勝利など、誰が想像しただろう。

 戦争をしなければ、滅亡するということが分かっているならまだしも、すべてを犠牲にしてまでする戦争などあるのだろうか?

 それこそ、戦争というものが、実に虚しく、理不尽なものなのか、考えれば分かりそうなもの。開発された兵器で、虐殺と破壊の限りを尽くす。それが戦争であり、相手に物資を与えないというのも、戦略としては重大なことだった。

 そんな世の中で、戦争が絶えず起こっていて、ただでさえ資源には限界があるのに、破壊の限りを尽くしてしまうと、資源など、あっという間になくなってしまうのではないか?

「資源を使って、兵器を作り、その兵器が、資源をさらに破壊する」

 本末転倒もいいところだ。

 そのせいもあるのか、地球上では、温暖化などの自然の崩壊を人間が招いたことにより、自然現象の異常気象が引き起こされ、それが温暖化につながり、母星の寿命を削っていくのだ。

 もちろん、先に人類が死滅していって。sこには、何も残らないのだろう。すべては、人間による自業自得が、自然界にまでつけを回すことになるのだ。

 そんなことを誰が考えるだろうか?

 今でこそ、

「持続可能な開発目標」

 などと言って、今さら感のあることを言っているが、実際に危機が迫らないと何もしようとしない。

 人間は同じことを繰り返す。核兵器だって、開発をした科学者には、最初からその危険性も、社会の危機も分かっていたはずなのに、止めることはできなかった。そして、使用された後も、危険を悟りながら、目を背け続けた科学者もたくさんいる。

 たとえは急に狭くなるが、

「警察組織は、何かが起こらないと動こうとしない」

 というように、秩序を守るために、動けないというのだろうが、

「だとすれば、警察というのは何のためにあるというのか?」

 という、禅問答のような会話になり、

「負のスパイラル」

 が生まれるのである。

 この島で、人が減ってしまい、自然だけが残っているところに入ってきた、

「クレージーカルチャー」

 は、そんな採取されて残った見た目は、そのままだが、廃墟と化した誰もいないジャングルに、最初から目をつけていた。

 だから、人がいなくなるのを黙って見ていたわけで、いよいよやつらの本性が現れてくるのである。

 彼らにとって、そこがどのような、興亡を起こそうと、自分たちの利益だけを求めて、一切関係ないと思っていたのだ。

 そんなやつらだkらこそ、他の連中には想像もつかないことが思いつき、一種の火事場泥棒ができるのだった。

 元々、この会社は、他のところのように、

「何かの資源があるはずだ」

 ということから、一つ一つをゆっくりち、模索していくようなことはしない。

「完全にあるものでないと、興味がない組織だ」

 と言われていた。

 いわゆる、

「合理主義的組織」

 であった。

 彼らが目指しているものは、鉱物や地下資源のような、燃料やエネルギーのようなものではない。原住民の人が普通に食しているもので、だからこそ、他の企業や組織には分からないものだったのだが、彼らの組織は、実は優秀な人材の宝庫でもあった。

 元、弁護士や医者、さらには科学者などが集まってできた、頭脳集団だったのだ。

 だから、

「クレージーカルチャー」

 などという、いかにも怪しい名前にしたのだ。

 普通常識のある組織が考えることは、

「いかに、当局から目を付けられないようにするか?」

 ということであり、暗躍するための土台作りのために、目立たないようにしようというのが当たり前で、組織の名前もありきたりの名前にするのが普通なのに、いかにも怪しい名前を付けたのは、

「当局に意識されることは計算済み、しかし、最初から怪しそうだというような名前をつけていれば、いくらでもつぶしが聞く」

 というものだった。

 当局だってバカではない。暗躍しようとする組織を見抜くことくらいはできるだろう。だから、下手に隠し立てをするよりも、自分たちを表に出して。怪しげな様子を見せることで、却って、

「こいつら、本当はバカなんじゃないか?」

 という意味で、欺くことはできるだろう。

 最初から怪しいかも知れないと思わせておいて、そこでの判断からが、腕の見せ所である。

 彼らのように下手に自分たちにプライドがあれば、一旦、怪しいと思って調べて、実はそうでもないと思わせれば、もうそこから先はよほどのことがない限り安心して暗躍できるというものだ。

 最初から怪しまれると、その意識が相手を引き付けてしまい、なかなか気を反らせるのは難しい。しかし、その怪しむというのは、あくまでも、相手側が自分から怪しいと思ったという意識でなければいけない。それが、プロ意識というものの、盲点になるであろう。

 彼らのように、自分から怪しいというのを見せてしまうと、

「いかにも怪しいものだと思わせることで、実はそうでもないと後で感じてしまうというのは、一緒に、専門家あるあるなのではないだろうか」

 と言えるだろう、

 そのあたりを、巧みに利用することで、一旦目を反らすと、もう一度食いついてきたとしても、

「一度、この俺たちが怪しくないと判断したのだから」

 と甘くみてしまうのだ。

 それは、

「一度警察が捜査した場所は、もう二度と調べない」

 という心理に似たところがあるのだろう。

 プロ意識の裏返しだと言ってもいいだろう。

「敵の裏の裏を掻く」

 と言ってもいいが、下手をすると、正面からぶつかってしまうことになる。

 ただ、それを意識していさえすれば、身構えて対処だってできるのだ。どちらにしても、敵の裏の裏を掻くという作戦は、

「どちらに転んでも、損をすることはない」

 と言えるのではないだろうか。

 一度、国連が意識を外した地域なので、そこに国連が踏み込んでくるということもないだろう。だからこそ、人材を表に連れ出すこともできたのだろうし、この組織は、そこまで意識していて行動しているのだから、大きな失敗はないに違いない。

 彼らが目を付けたのは、前述のとおり、

「麻薬を採取することのできる植物を獲得すること」

 だったのである。

 まさか、それが普通に食べられるものだということを、他の人が気づくはずもない。それだけ、この組織はプロフェッショナルの集まりだった。

 そもそも、ここは宗教団体が、母体だった、いや、宗教団体ということにしておけば、反社会的な人間で、世間の目を欺くようにして生きている連中を集めやすいと考えたのだろう。

 最初はそうやって、怪しい組織を名乗っていたのに、当局から睨まれたり、摘発を受けなかったのは、まだ組織自体が小さくて、当局がそれほど気にしなかったからだ、それでも、当局が気にし始めるタイミングを見計らって、宗教団体という暖簾を降ろしたのだ。

そのタイミングもよかったようで、世間としても。その組織を宗教団体として意識するどころか、組織の存在すら、うまくフェイドアウトするということで、世間から怪しまれるということはなかった。

 団体や組織にとって、世間から騒ぎが大きくなるのは、なるべく避けなければいけなかった。

 最終的に世間を敵に回してしまうと、世間から孤立してしまうということはおろか、ちょっとしたことで勘違いされてしまう。何か大切なものを託わせなければいけない時、世間が名前を聞いただけで、

「お前のような危ないところに協力する気はない」

 と言われてしまうだろう。

 一人が騒ぎ出すと、まわりに波及してしまい、あっという間のそのあたりから退去しなければいけなくなる。それだけで済めばいいが、そういうニュースは広がるもので、マスコミにターゲットにされでもしたら、全国に拠点があれば、全国にその問題が波及してしまい、組織の存続すら危うくなってしまう。

 それを考えれば、最初は、宗教団体として、陰で暗躍し、そして、ある程度の人材を確保すれば、そこからは、普通の団体として、ベールを脱ぐ、すると、まわりの人も、当局も、中にいる人間のことまで気にしていないだろう。あくまでも当局が気にするのは、宗教団体や、危険分子として、表に出ている連中だ。

 だからと言って、暗躍している間にへまは許されない。人を集める時、

「この男だ」

 として目を付けた人間以外に、自分たちが、怪しい組織の人間であることを悟られないようにしなければいけなかった。

 声をかけた連中が、もし組織に入ってくれなくても、彼らが自分たちのことを当局に売るようなことはしないだろう。

 何しろ、声をかける連中は、反政府の連中であり、政府や、その中でも国家公安というのは、敵対視しているのだ。そんな連中が天敵ともいえる当局の人間に、組織を売ることはないだろうと考えるからだ。

 そんな連中は、組織にとって。

「味方ではないかも知れないが、決して敵ではない」

 と言えるだろう。

「味方ではないというのと、敵ではないという感覚では、当然のごとく、敵ではないという方が強いだろう」

 ということなのである。

 やつらは、麻薬を手に入れる機関を、一定期間に限っていた。半永久的に、あの島に居座って、麻薬を独占しようとは思っていない。理由はハッキリしている。

「麻薬を生成するあの植物は、あの土地でしか生息しないという特殊な植物で、下手にあの島にとどまって、麻薬を栽培するということにこだわれば、そこから抜けられなくなり、自分たちがまるで麻薬中毒になったかのように、あの土地に根を下ろしてしまう」

 ということであった。

 それでは、なぜあの土地に執着してはいけないのかというと、

「あの土地は、昔は十分な文明を持った政府が存在していたはずで、それがいつ、どのようにしてなのかまでは分かっていないが、滅亡してしまったということなのだと我々は思っています」

 という、組織の中の考古学研究者たちが、そういうのだ。

 彼らの示した証拠となる発掘物には、十分な説得力があり、組織も、その一定期間だけ、この土地で、目的を低く定め、それが達成されれば、速やかに撤収するように、計画を立てているのだった。

「攻めるも守るも伝送石化」

 これこそが、組織のモットーであり、表に出てきた時には、すでに大きな組織となっていたので、経済界では、

「いきなりポっと出の組織が湧いてきた」

 という、ちょっとしたセンセーショナルを巻き起こすのであった。

 この麻薬というのは、覚醒能力は、他の麻薬とは違っているが、禁断症状というものが、ほとんど少ない。だから、他の麻薬に比べると、

「やめようと思えば、やめることができる可能性は高い」

 というものであった。

 これは、

「麻薬で金儲けをして、組織の資金源にあてよう」

 と目論んでいる人たちにとっては、それほどの需要はないだろう。

 いくら禁断症状が少ないと言っても、取り扱っているのは、麻薬である。

 世界的に麻薬認定というものをこの薬物に関してはなされていないが、麻薬の定義としての、薬物がどれだけの含有率であるかということで決まっているので、そういう意味では、完全に麻薬認定されるおは、時間の問題だった。

 だから、認定を受ける前に、資金に変えて、そこから蔓延させる前に一時期、その流通を止めてしまえば、当局が麻薬認定する前に、金儲けだけして、撤退できるのだ。それをまたほとぼりが冷めた頃に、金儲けに使えば、独占もできるし、自分たちが危うくなることもない。

 だから、この島での暗躍が表に漏れることは、絶対に避けなければならない。

 危険は避けられるが、それほど儲かるわけではない。それでも、この麻薬を必要とするのは、金だけが目的ではない。

 薬物を使うことで、人間の活性化を促し、それによって、人足が力以上の実力を発揮することができる。

 これは、麻薬としてというよりも、潜在能力を引き出すという意味で、利用するためのものであって。しかも、摂取すると、摂取した人間は、労働に対して、嫌な気はなくなり、ロボットのごとく、さらには、馬車馬のごとく働くことを正義だと思うという効果もあった。

 そう考えると、

「クレージーカルチャー」

 という組織の目的がどこにあるのか、分からなくなってくる。

 今のところ、麻薬栽培をして、その麻薬を使って、人間を覚醒させるということに成功している。

 その目的は、直接的な販売などによっての、金銭ではなかった。

 禁断症状がないのだから、

「薬中」

 になってしまい、薬をもらうために、女であれば、身体を売ってそれを資金源として組織を大きくするということもない。

 ただ、その薬物の覚醒能力を使って、

「摂取した人間の能力を引き出す」

 ということだった。

 それによって、何が得られるのか、彼らにとって、いかなるメリットがあるというのか、サッパリ分からない。ただ、彼らは頭脳集団であり、一般人の考えが及ばないようなすごいことを考えているのだろう。

 そこまで考えると、普通であれば、国家転覆であったり、クーデターのようなことが考えられるが、そんな素振りもどこにもない。

 確かに、陰で暗躍はしているのだろうが、暗躍をしているということを、当局に知られることもない。どちらかというと、この組織には実態がないような感じで、公安も組織も、まったく捉えどころのない存在であった。

 ただ、名前だけは、いかにも怪しい集団というべき名前で、どちらかというと、名前だけが、空回りしていて、必要以上に、一定の限られた範囲内でだけ、不安にさせているのだった。

 その組織が、空回りし、その場にとどまっているかのような状況を、組織は想定したということであろうか?

 まるで、禅問答をしているかのように見える組織の形は、かなりの幅を持っての、行動のように思えるが、それはあくまでも、そのように見えさせるために、カモフラージュなのかも知れない。

「きっと何かの大きな目的を持っているに違いない」

 と考えられる。

 とりあえずは、今は狭い範囲だけ、つまりは、原始的な島でとれる麻薬に対しての暗躍から始まっている。同時多発的に他の世界でも、行動を起こしているのだろうが、それが、何かを隠すためだということが目的ではないか?

「木を隠すなら、森の中」

 ということなのかも知れない。

「路傍の石」

 と同一の意味なのかも知れない。

 彼らが、今、目立ってはいけない理由に、もう一つあって、それは、今が発展途上だということだ。目的は何であれ、見つかってはいけない理由がそこにあるということが重要なのである、

 組織が生まれた経緯として、まず、この島が独立した時、他のと東南アジアの国とは違って、特殊だったことが問題だった。

 細かいことは説明すると長くなるので割愛するが、そのせいもあってか、国連からの統治を受けても、完全に立ち直れなかった、そのせいもあって、やむを得ず、今の国家を残すため、原始的な島国を分割することにした。

 しかも、急速な改革を行わないと、生き残れないという問題もあり、切り捨てられた方の島は、数十年、誰の統治も受けない島だったのだ。

 その間に、実は、日本兵が潜んでいたのだが、もちろん最初から、横田少尉だけだったわけではない。他にも日本兵は残っていたのだが、定期的に、国連に連行された人がいたのだ。

 最初は旧日本陸軍が、三十名ほどいた。それが定期的に移送されることで、残った兵士は、次第に島の人間に染まっていくようになった。彼らは、生き残るための方法を学び、さらに、この島の秘密も知ることとなる。それを、

「クレージーカルチャー」」

 という組織に洗脳され、彼らの思いのままに誘導されるようになった。

 組織は、最先端の医学とともに、精神科の知識も持っていた。

 いまだに世界のどこでも、解明されていない心理学的な症候群の解明など、すでになされていて、しかも、潜在意識を引き出すことができる機械も開発していたのだ。

 催眠術のようなものでも、機械によって掛けることができたり、記憶喪失も、ほとんど、機械を使って、取り戻すこともできるようになっていた。

 だから、この世界でとれる麻薬は、その機械の効力を引き出すために、摂取することで、人間をコントロールしたり、その人の記憶を書き換えることすらできるのだ。

 それは、本人が忘れてしまっているはずの潜在意識についても同じことで、その機能を使って、世界の最先端医療に革命を起こそうと考えていた。

 ただ、これはあくまでも、大きな目的のためのデモンストレーションに過ぎない。

「それくらいのことなら、十数年遅れて、一般の世界にだってできるくらいのことだろう」

 というのだった。

 それくらいのことで、この組織は暗躍しているわけではない。もっと、大きな目的があるのかも知れないが、幹部の人のさらに、一部の人間しか知らない。

「我々の考えていることは、ある意味、人類の究極のテーマを実現することに近いだろう」

 ということであった。

「不老不死」

 あるいは、タイムマシンを使って、過去や未来へ行けるようになる。

 というような、今のところ、研究が途中で大きく頓挫していることなのではないだろうか。

 不老不死であれば、死なないということでの、生態系や、社会の仕組みを根本から壊してしまうという考え。

 さらには、タイムマシンの場合には、

「タイムパラドックス」

 と言われる、矛盾であったり、理不尽なことが裏に潜んでいるという逆説の問題であった。

 それこそ、

「タマゴが先か、ニワトリが先か?」

 さらには、

「ゼロ除算」

 というべき、数学では、あってはならない計算方法に至るまでの、いわゆる、

「禅問答」

 のようなことを、解明することなのであろうか?

 いや、解明することで、それまで見えていなかった何かが見えてくることで、解決する問題を、いかに見つけるか? ということが、彼らの目的に近づくことであった。本当に、理解不能な問題と言えるのではないだろうか?

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