第36話 帰宅部の三人

 放課後の帰り道のこと、涼真は妙な居心地の悪さに悩まされていた。


 涼真と帰宅しているのは二人、翠と聖来である。


 二人の間に挟まれて帰路を歩いているが、なぜか会話はない。いつもは空が青いとか蝶々が飛んでいるとか何てことないものに興味を惹かれ、話が無限に広がっていく翠だが今はじっと押し黙っている。機嫌が悪いというよりも、普段の学校生活での翠という感じだ。


 きっと聖来がいるから心をシャットアウトしている。別に二人は仲がいいわけではないみたいだ。


 それに対して聖来はなぜかこちらを見たまま興味深そうに見つめてくる。息をするようにからかってくる彼女が話をしないのは、いったいどんな意図があるのかと怖くなる。


 色々と悪い妄想を広げていると、涼真の袖が引っ張られる。


 翠がちょいちょいと指を曲げている。話をするから顔を近づけろということだろう。


 涼真は翠の意図通りに顔を近づけた。翠が涼真の耳元に手を添え、唇を近づける。


「ねえ、赤月さんって普段どんな人?」


 耳がこそばゆい。涼真は翠に耳打ちし返す。


「いや知らないって。クラスメイトなんだから碧川さんのほうが知ってるでしょ」


 翠が耳打ちをさらにし返す。


「クラスだと猫被ってるって言ってたでしょ。それに赤月って呼べって言われる意味もわからないし」


「? どういうこと」


「クラスでの名前は赤月じゃないってこと」


「偽名!?」


 赤月は偽名。聖来も偽名か? もうわけがわからない。


 聖来に顔を向ける。いったい彼女は何者なのか。当の本人はふむふむとなにかに納得して頷いてる。


「なるほど、そんな感じね」


 どんな感じ?


「別に私がいるからって遠慮しなくていいから。普段通り過ごして」


「いや、それよりも気になることだらけなんだけど。赤月さんの本名ってなに?」


「内緒」


「ウィッグは普段つけてるの? それとも今が外した状態?」


「内緒」


「俺たち一度会ったことある?」


「ナンパ?」


「違う!」


 くつくつと聖来が笑う。


「人を知るためにすることなんて一つだけでしょ?」


 なんだ? 探偵を雇う、か?


「ま、仲良くしましょってこと」


 仲良くなるってことか。


 それは一理ある。


 そう納得したところで、聖来が身を寄せてくる。この距離は友達とかの距離ではない。恋人とかの距離だ。


「ち、近くない!?」


「さっきはもっと近かったでしょ」


 さっきとは、翠と耳打ちをしていたことを指しているのか。確かによく考えてみると、あれも友達の距離としては近すぎたのではないか。そう思うと少し恥ずかしくなる。


 隣の翠を見ると少し距離が離れていた。耳が少し赤いような気がする。


 翠はその後聖来と涼真の距離を見て、少し逡巡して、ちょっとだけ涼真との距離を詰めた。

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