第35話 帰宅部のニューメンバー

 昇降口では、翠が誰かと話していた。友達だろうか。珍しいこともあるものだなあと思って涼真は様子を見ることにした。


 相手を見てみると、白いマスクとじっとりとした目つきが特徴の女子だった。あれは間違いなく赤月聖来である。


 二人は知り合いだったのだろうか。


 話を聞いてみよう。


「ねえそこに隠れてるでしょ。出てきなよ涼真」


 うそん。


 こんなにすぐにバレるとは思わなかった。


「はい」


 涼真はしぶしぶと出ていく。


「なんで隠れてたの?」


「いや、二人の話を邪魔するのも悪いかなって」


「それで盗み聞きしようってことね」


 聖来の言葉には一々トゲが含まれているようだった。


「で、二人は知り合いなの?」


「知り合いっていうか、クラスメイトだよ。私は気づいてなかったけど」


「気づいてなかったんだ。まあ碧川さんらしいけど」


 翠のクラスメイトということは、聖来は涼真にとっても同級生ということだ。聖来の謎が一つ解かれた。


「いや気づいてなかったというか、気づけないというか」


 翠にしては歯切れの悪い物言いに涼真の頭にクエスチョンマークが浮かぶ。


「どういうこと」


「だってクラスの赤月さんって今と全然違うもん」


「? どういうこと」


 翠との会話に聖来が割り込んでくる。


「それはね、私が普段は猫を被ってるってこと」


「ええ……」


 少なくとも自分で言うことではないと思う。


「クラスではどんな感じなの?」


「品行方正、誰にでも優しく、自分から率先して面倒なこともする、深窓の令嬢みたいな感じ」


「ええ……」


 全然違うじゃん。


「でもこんなところで話してたらバレるんじゃないの。なんというか、その、本性がさ」


「そのためのマスクとウィッグでしょ」


「ウィッグ⁉」


 駄目だ。知るほどに謎が出てくる。


「ね、ここまでされたらクラスメイトなんてわからないでしょ」


「たしかに。でもなんでそこまでして……、っていうか碧川さんにはそれをバラしたってこと? なんで」


「だって碧川さんだって猫被ってるでしょ。クラスではツンケンして誰とも喋らないのに、今は涼真と仲良く喋ってる。別に私がどんなやつでも、碧川さんにバレたって何のリスクもない」


「まあ、そうかな」


「それにこれから私も帰宅部だから。ある程度隠し事は知っといてもらわないとね」


 なんだろう。なんか嫌な予感がする。


「さっきまで碧川さんと話してたのはね、私も一緒に帰宅部に入れてほしいって話。別に毎日じゃないけどね。だから、」


 聖来がこちらに指を突きつけてくる。


「これからよろしくね」


 そんな様子を翠が怪訝な様子で見ている。


「二人って、どういう関係?」


 それは一番涼真が知りたい。

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