第25話 イニッシーの謎を追え

 涼真と翠は現在ジャングルの奥地に来ている。嘘である。ただ森林を越えた奥地に来ており、気分はジャングルなだけである。そして二人の目の前には湖がある。水は濁っていて緑色に近い。太陽が出ているはずだが周囲の木々によってずいぶんと暗い。なんとなく、不気味な雰囲気がある。


 そして今回の目的は、この湖に住むといわれるイニッシーという生物を探すことにある。


 イニッシーとは首の長い恐竜のような見た目をしているらしい。まあネッシーを想像してもらえばいいと思う。そしてそのネッシーの正体が流木だとか生物のしっぽが曲がったシルエットであるとか、あまりに夢がない。


 つまりイニッシーの噂もなにかの見間違いである可能性が高い。


 しかし翠は自信満々な顔つきで、その場でレジャーシートを広げた。


 なるほど、イニッシーが現れるまで待機するつもりなのだろう。


 翠はさらに背負っていたリュックから袋を取り出した。その中身には大量のお菓子とジュースが入っていた。彼女はそれをレジャーの上に広げる。


 なるほど、見張りには体力が必要だ。それを見越したカロリーと糖分の補給なのだろう。


「ほらここ」


 翠はレジャーシートに座り、その隣をぽんぽんと叩いた。この過酷な調査に涼真を招いているのだろう。涼真は翠の隣に座った。


「涼真くんおせんべい好きだったよね」


 差し出されたせんべいを受け取り、涼真はそれを食べ始める。


「もっときれいな湖だと思ってたなあ」


「水が透き通ってたらイニッシーもすぐ見つかっちゃうしね」


「たしかに」


 その後もレジャーシートの上でお菓子を食べ、ジュースを飲み、ただ談笑するだけで時間が過ぎていく。涼真は湖のほうを気にして何度か見てみるが、巨大生物がいる気配がない。そもそも生き物がいるのかどうかも怪しい。


「全然現れないねイニッシー」


 涼真の言葉に、イニッシーを探しに行こうと言った当人はなぜか少しあきれたような表情を見せる。


「涼真くん、そんな簡単に見つかるなら伝説じゃないんだよ」


 なぜかちょっと煽るような言い方だった。なぜ、煽られている?


「それにね、探そうと思ったらイニッシーだって出てこないよ。ガチャの物欲センサーと同じ。だから今日はあくまでピクニックに来てるって体で過ごすの。つまりこれはあんたになんか全然興味ないんだからね、で逆にイニッシーの興味を惹く作戦なんだよ」


「そんなツンデレの概念をイニッシーは持ち合わせてるのかな」


「ちなみに私は全然涼真くんのことなんて興味ないんだからね」


「なぜ急にそんなひどいカミングアウトを……」


 普通にショックだ。


「真に受けた? ザコだね。ザコザコのザーコ。あんたの理解者なんて私しかいないんだから、これから二十四時間私だけを見なさい」


「なんか色々と混じりすぎてわけがわからないよ」


「どう? 惹かれた?」


「引いたかも」


「いつもと違う私作戦は失敗か」


「いつも通りの碧川さんがいいよ」


 言ってしまって少しはっとした。こんなの普段の君に好感がありますと打ち明けてしまったようなものではないか。


「ふーん。いつもの私がよかったんだ」


 目ざとい。翠は隙を見逃さない。


「ツンデレとかヤンデレとかそういうのよりは、って意味だから」


「それがもうツンデレじゃん」


 翠が楽しそうに笑っていた。なんだかしてやられた気になる。


 そして二人がイニッシーなど忘れていた時に、湖に大きな波紋が走る。水面から頭のようなものが突き出ている。


 しかしそれに、二人は気づかないのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る