第24話 二人フィッシング
「さあ今日の晩ごはんを釣りあげるよ」
翠が腕まくりをして気合を入れていた。その手にはレンタルの釣り竿を持ち、海に向かって狙いを定めていた。
「ちなみになにを釣るの?」
「……サメ?」
「サメは……釣れないんじゃないかなあ」
「じゃあ鯛」
「鯛は……いけるかも」
涼真も釣りはしたことないのでなんとも言えない。涼真も借りた釣り竿の先に、エサになるミミズを引っかける。うねうねしていて気持ちが悪い。翠もエサをつけようとミミズにちょんと触れては騒ぎまた触れては悲鳴を上げ、一向に進捗しなさそうだったので涼真がミミズをつけてあげた。
小さな椅子に座り、二人並んで釣り糸の先をじっと眺める。
「何匹釣れるかな。もう来るかな。もうちょっとかな」
翠を見ていると、釣りというのは集中力が必要な作業なのだと感じる。翠はせっかちなところがあるのであまり向いていないんじゃないだろうか。これでは魚の方から翠を避けてしまいそうだ。
しかし涼真の想いとは裏腹に、翠の釣り糸が海にくいくいと引っ張られる。
「きたっ! これ、どうしたらいいの。引っ張ったらいいの? 強め? 弱め?」
「わ、わからないけど、いきなり引っ張ったら糸が切れるかも」
「こっちきて涼真くん手伝って」
「わかった」
そう言って持ち場を離れようとすると、涼真の釣り竿にも反応があった。
「こっちも来た! どうしたらいいこれ」
「はやくはやくこっちきて」
「でもこっちも来てるんだけど」
「ふおおおお!」
「なんかすごい引っ張ってるけどびくともしてない‼ いやこっちも引っ張らないと。うおおおおおおおおおおびくともしない!」
二人でてんやわんやとしていた。
その隙を魚は見逃さなかったのか、二人とも同じタイミングで魚を逃した。海面から姿を現した釣り針にはなにもない。
二人で乱れた息を整えた。
「冷静さが大切だね。慌てずにやろう」
涼真が当たり前のことを言った。
「そうだね。あとは助け合い。ワンフォーオール、オールフォーワンだよ涼真くん」
「えっと、どんな意味だっけ」
「涼真くんは私のために、私は私のために頑張るってこと」
「そんな暴君みたいな意味だったかな!」
しかし涼真は先ほどと同じ状況になれば翠を手伝おうと決めていた。二兎追う者は一兎も得ることはできない。まったくことわざというものはよくできている。
二人並んで釣り竿を眺める。潮風が頬をなでていく。それはいつもの風よりもべたついて気持ちが悪いけど、いつもと違う風も目の前に広がる海原を見ればちっぽけなことのように思える。
今度は釣れるといいな。
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