第23話 未成年の飲酒、ダメ絶対!
普段の帰り道、涼真と翠は公園のベンチに腰をかけていた。なんでも、翠が一緒に食べたいものがあるのだという。
「はい、これ」
渡されたのはチョコだった。金色の包み紙に包まれている、ちょっと高級感のあるやつだった。しかも丸じゃなくて四角というのもよくわからないけど高級っぽく感じた。
「ありがとう。でもなんでチョコ?」
今日はバレンタインデーではないはずだ。
「お父さんの知り合いの人がくれて、どうせなら一緒に食べようかなって。あとこれただのチョコじゃなくてね……」
翠がちょいちょいと手をこまねく。
周りには聞かせられない情報なのだろうか。涼真は翠に顔を近づけ、右耳を向ける。その右耳に対して翠は囁いた。
「お酒が入ってるんだ」
涼真はびくっと顔を離した。お酒の件で驚いたわけじゃなく、耳元がくすぐったくて距離を取ったのだ。
「ふっふっふ、私たちはここで大人の階段を昇っちゃうんだね」
ちょっと怪しい言い回しだなと思う。
「ウイスキーボンボンみたいなやつでしょ? 未成年でも普通に食べられるはずだけど」
「でもお酒に弱い人はこれだけでも酔っぱらっちゃうらしいよ」
まさかこれは、翠が酔っ払って涼真が大変になるやつかもしれない。
「ここで食べるの?」
「ここで食べよう」
意思は固いようだった。
仕方がない。
二人で包み紙を開けて、チョコレートを口に入れた。鼻につんとくるような刺激がある。弱い電気が通ったような刺激が舌にもあった。辛みを感じる液体に甘いチョコレートが混じって、甘すぎないちょどいい美味しさになる。
翠も新しい味に対して感嘆の吐息を漏らした。
「ほお、こんな感じなんだ。美味しいね。でもこれで酔っ払うにはお酒が少ないかも」
なんだろう。顔が熱い気がする。胸の奥底から情動が込み上げてくるような不思議な感覚がある。脳に浮遊感があるような不思議な感覚だ。頭の隅で、そういえば母親がかなりお酒に弱かったなと思い出す。
「どうどう? 涼真くん酔っ払っちゃった?」
涼真は答える。
「酔っ払ってないよ‼」
「声でかっ!」
「こんな量で酔っ払っちゃったら、警察に捕まっちゃうでしょうが!」
「いや、お酒に弱いからって警察に捕まることはないよ」
「なんでやねん!」
「なにが⁉」
考えるよりも先に言葉が出る。翠のツッコミなんてあまり聞かないから新鮮で、少し楽しくなってくる。
だけどそれ以上に眠くなってくる。
「寝たい!」
「欲望に素直だ。こんな涼真くん新鮮すぎる。ちょっとまって」
翠はスマホを取り出し、カメラを自分たちに向ける。
「涼真くん、うえーい!」
「うえーい!」
よくわからないけど翠に合わせてピースをした。楽しくって眠くって、それから頭が痛くなってきた。
頭をふらつかせ、涼真はそのまま翠に向かって上半身を倒した。
「うわっ、大丈夫?」
涼真の頬に柔らかい感触があった。
「ごめんね、こんなにお酒に弱いとは思わなかった。このまま寝ていいよ。あとで起こしてあげるから」
「うえーい」
自分でもなにを言っているのかわからない。そのまま涼真の視界はブラックアウトした。
▽▽▽
「涼真くん、そろそろ起きて」
頬を優しく叩かれて目が覚める。頭がずきりと痛む。っていうかなんで寝ているのか記憶が曖昧だ。陽もほとんど落ちかけている。
「ってうわ!」
涼真は翠の太ももを枕にしていることに気づいてすぐに身を起こした。
「いったい、なにが……?」
「ほらみてこれ」
翠がスマホの画面を見せてくる。
そこには翠と並んで横ピースをしてはっちゃけている自分の姿があった。
結局、なにが起こったんだ。ただ一つわかることは、これをネタに数日は翠にからかわれるということだ。
涼真は今後、大人になってもお酒は飲まないようにしようと心に決めた。
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