第22話 言葉にしてほしいんです
「いやーいい天気だねえ」
「そう?」
雲が結構ある。なんだか全体的に暗いし、どちらかといえば悪い天気だ。
「ねえねえ」
「なに?」
「……なんでもない!」
「ええ……」
今日の翠はなんだか変だ。いつもちょっぴり変だが、今日は特に変だ。
なんでだろう。
そういえばいつもより視線を感じる。
こちらの様子を気にしているのだろうか。出方を窺っているような感じか。しかし何の出方を窺っているのか。今日の翠の髪型はいつもと違う。いつもは肩に届くぐらいの長さの髪をそのまま流しているけど、今日は複雑に編み込んでいる。なんていう髪型かは知らないけど手間がかかってそうだった。
普段と違うところはそんなところだが、翠の様子が変なことと関係があるのだろうか。
「ねえ、にらめっこする?」
「したいならするけど」
道中で立ち止まり、向き合う。
無言の時間がなぜか長い。
「じゃあいくよ。にらめっこしましょあっぷっぷ」
涼真は変顔と言われて真っ先に思い浮かんだ歌舞伎役者の顔を、自分の顔で再現してみた。口をゆがませ、目を明後日の方向に向ける。手でポーズを取るのはさすがに止めた。
これが涼真の精一杯だ。
さあ笑え、翠。
涼真は翠の様子を見てみる。すん、と落ち着いている。
「いや変顔は⁉」
自分一人だけが歌舞伎になっていた。恥ずかしくなって思わず叫んだ。
「乙女が男の子に変な顔を見せるわけないでしょ」
「に、にらめっこのルールを理解していない……」
「あのね涼真くん。女の子が変わる時はね、相手によく見てもらいたいっていう時なんだよ」
さっきまでにらめっこをしていたかと思えば、今は乙女心を諭されている。振れ幅がおかしい。やっぱり今日は様子がおかしい気がする。
翠は髪をいじってなんだかそわそわしている。
トイレか?
いや、そうではないだろう。さっきの翠の言葉にヒントが隠されているのかもしれない。女子の変化は相手によく見てもらいたいからこそ。つまり翠の髪型の変化は、誰かにいつもより良く見てもらおうということになる。その相手が翠の目の前にいたとする。
それはつまり、そういうことなのかもしれない。
気づくだけでは相手に伝わらない。だから涼真がまずすべきことは、こうだったのだ。
「あー、その、今日の髪型……いい感じだね」
これが涼真の本日二度目の精一杯だった。
翠はわかりやすく口角が上がっていく。
「遅いよ。鈍感くん」
それからはいつも通りの翠に戻った。いや、いつもより彼女の機嫌は良かったかもしれない。
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