第21話 あなたに出会わなければ

 保持涼真の家はいわゆる転勤族というやつだ。色んな場所で、色んな家で、色んな学校で少年期を過ごした。友達ができてもすぐいなくなる。知り合いはすぐに他人に変わる。引っ越しの度に涼真は泣いて、別れを悲しんだ。だけどいつからか別れが悲しくなくなった。


 いつしか友達の作り方がわからなくなり、人と関わることすら億劫になった。


 だけど高校生になって、将来のことを少し考えるようになる。社会に出たら人づきあいが大事になるのだ。


 その時、涼真は焦った。


 友達ってどうやって作るんだっけ。人と触れ合うきっかけは、学校と言う場所では溢れている。教室での授業はもちろん、部活を通してみんなで同じことに取り組むのもよいだろう。


 しかし高校一年生の冬という中途半端な時期に引っ越してきた涼真はかなり浮いた。冬に仲良くなっても、次で別のクラスになるかもしれないと思えば積極的に話しかけてくれるような生徒はおらず、しかも全員が入部を義務付けられているのに中途半端な時期に転入した涼真はその義務すら発生しない。


 暇な放課後は、まずは地元を知ることが大事だと意味なく歩き、周りに人がいないことを見計らって自分が友達といる時のシミュレーションをしたりした。


 より孤独感が増した。


 まだだ。


 クラス替えというビックイベントが控えていることを忘れてはいけない。


 新しいクラスでは、もちろん顔見知りもいるだろうが初めましての人間も少なくはない。涼真がそこまで浮くこともないはずだ。むしろ転入生というキャラクターがある分話しかけやすいのではないだろうか。


 いや、話しかけられることが前提になっている。


 違うのだ。社交性を身に着けるのだ。涼真が転入生というキャラクターを生かして話しかける。こうして会話のきっかけを作る。よし、頑張るぞ。そんなことを思っていると高校生活の一年目が終わりを告げる。


 そして桜の咲く季節。


 涼真は見事に体調を崩した。季節外れのインフルエンザにかかり、長期の休みを余儀なくされた。


 学校での二週間は決して短くはない。


 今頃クラスでは新しい面子で一つの組織が形成されている。組織の中にはいくつかのグループができあがり、そこに入り込むのは容易ではない。


 ベッドの上ではあ、とため息をつく。


 自分はつくづく間が悪い。そして中途半端だ。孤独を貫き通せるわけでもなく、誰でもいいから友達が欲しいと願っている。


 そういえば、と思い出す。


 同級生に碧川翠という悪目立ちしている生徒がいる。テストの点数を操作し、教師は彼女に逆らえず、中学では喧嘩に明け暮れた日々を過ごし、夜は大人と遊んで一生暮らせる金を手に入れて、などとどこまで本当なのかわからない悪い噂が彼女を取り巻いている。


 彼女も涼真と同様に部活に所属しておらず、帰りの際にたまに見かける。派手な見た目で涼真とは一生関わりのない人間なのだろうなと思う。


 そして彼女はいつも一人でいる。きっと彼女は孤独を貫き通している人間なのだ。そんな生き様を涼真は少し羨ましく思う。


 だけどなにも変わることはない。


 涼真はただ日々を過ごすだけだ。


 窓の外を見る。散った桜が空に泳いでいる。

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