第19話 お見舞いとお見舞い
風邪をひいた。
体がだるく、動く気にならない。体温は高いはずなのに寒気がするし、ずっと視界がぼやけているような気もする。とにかくベッドで横になっているが、両親は仕事に出ていて面倒を見てくれる人はいない。涼真に対してドライなのはいつものことだが、風邪の日ぐらい自分のことを見てくれてもいいのではないかと思う。
昼になったが食欲も湧かない。
このまま眠ろうかとも考えるが、朝も食べていない。さすがになにかお腹に入れておいた方がいいか。だけどだるい。
ピンポーン。
と玄関のチャイムが鳴る。
こんな時に一体誰だ。無視してやろうか。いや、でも親が帰ってきてくれたのかもしれない。
涼真は立ち上がり、モニターで誰が来たのか確認する。黒いマスクに切れ長の瞳。
「碧川さん?」
スピーカーに向かって声を出す。
「お見舞いにきたよ」
学校は? という疑問を腹に抱えながらとにかく玄関のドアを開ける。
「ちゃんとご飯食べてるか心配になって」
翠が手に持ったビニール袋を差し出してくる。
「トークで親が家にいないって言ってたでしょ。だからこれ、コンビニで色々買ってきたからちゃんと食べてね。レンジでチンしたら食べれるおかゆもあるから……ごほっごほっ」
「碧川さんも風邪ひいてない⁉」
そういえばいつもより肌が赤みを帯びているように見える。マスクであんまり顔見えないけど。
「いや、お構いなく」
「もしかして碧川さんも学校休んでるの?」
「そうじゃなきゃお見舞いに来ないよ」
「んー、ん? ……ん?」
頭が混乱してきた。きっと翠も同じなんだろう。このまま帰すのはなんだか危ない気がした。
「とりあえず家で休んでいきなよ。親は夜まで帰ってこないし」
「うーん……そうしようかな。お邪魔するね」
翠が家に上がる。なんだか普段生活している場所に翠がいるのは変な感じだ。
翠の買ってくれたものを見る。さっき言っていたおかゆは二つの味がある。ゼリー飲料やスポーツドリンクや少年漫画雑誌もあった。休みの日の漫画雑誌はなぜかテンションが上がる。
「碧川さんお昼は?」
「食べてない」
「じゃあおかゆもう一つ作るね」
「うん」
作るといってもレンジでチンするだけだ。
「準備するからとりあえず俺の部屋に行っといて。そこの部屋だから」
「涼真くんの部屋かあ…………いたずらし放題」
「大人しく待ってて⁉」
涼真はおかゆの準備をする。飲み物はせっかく買ってきてくれたからスポーツドリンクをコップに入れよう。
あれ、どっちのお見舞いだこれ?
「お待たせ」
「待ったあ」
普通に涼真のベッドで寝そべっている。嫌じゃないのか。
翠は起き上がって、いただきますと手を合わせておかゆを食べ始める。食べ終えたらお腹いっぱいで動けないといってダラダラし始める。始めて来た人の部屋でよくくつろげるなと思う。涼真は片付けをする。
だけど不思議だ。
さっきまで動く気もないぐらいにだるかったのに、翠のために今は色々と動いてる。
一人で寂しかったところに翠が来てくれて、心に余裕ができたのかもしれない。お皿やコップを片付けて部屋に戻ってくると翠が寝ていた。
かなり無理をしてお見舞いに来てくれたのかもしれない。涼真も体がだるかったのでいつのまにかうとうととしてしまった。
いつの間にか母が帰ってきて修羅場になった。
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