第18話 逆さまレイニーデイ
バケツをひっくり返したような雨だった。
「うぎゃあああ」
突然のことに翠は悲鳴を上げていた。涼真も上げた。
涼真と翠はカバンを傘の代わりにしてとにかく走った。どこか雨宿りができる場所はないかと探し、屋根のついたバス停を見つけた。滑り込むように屋根の下に入り込み、二人は一息ついてがくりとうなだれた。
「急などしゃ降りだね」
翠の言葉に涼真は頷いた。
天気予報などあてにならない。常に準備をしていくことが必要だ。折りたたみの傘を常に携帯しようと心に決めた。しかしこれだけの雨量であれば折りたたみの傘などぽっきりといってしまうかもしれない。
肌に張りつく服が気持ち悪い。袖の部分を絞ってみるとぞうきんみたいに水が出てくる。
「うわあ見てよこれ」
翠にどれだけ制服が濡れているのか見てもらおうと思って、翠のほうを見る。
翠の髪が肌に張りつき、制服だって涼真と同じように濡れている。服越しにうっすらと見えるものがあることに気づいた瞬間それとなく目を逸らした。
「なにみたの?」
テレパシーかと思うぐらいに的確な言葉を投げかけられた。
「いや、ほら水がすごい出てくる」
「ふうん…………こっちみちゃだめだからね」
いつもみたいにからかうような雰囲気でないので、本当に恥ずかしがっているんだろう。
とりあえずベンチに座る。誰も来ることはなく、バスの一台だってやってこない。雨音が地面を叩きつける。周囲が水に囲まれている。
「水槽の中みたいだね。いや、逆なのかな」
翠の言葉で想像力を働かせる。水槽には水が入っている。水槽の外側は空気に満ちている。バス停の周囲が水で満たされているのなら、空気に満ちているこの場所は確かに水槽の逆なのだろう。つまりここは、水槽に囲まれた内側の世界なのだ。
「魚を投げたら雨の中を泳ぎそうだね」
「たしかにそうかも」
そんなよくわからないことを言いながら雨をただ眺める。
二人の頭の中では雨の中に金魚が泳ぎ、鯛やヒラメが舞い踊り、シロナガスクジラが大きな口を空けている。
通り雨が過ぎるまで、この世界は逆さまだ。
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