第13話 チョコレート日和

 デパートの中は、ハートの風船やら紙吹雪を模した装飾やらで妙にカラフルだった。デパートだけではなくて、街中が浮かれている雰囲気に包まれている。


 バレンタインデーの魔力というやつだろうか。


 デパートの客層は、カップルよりも女の子が友達同士でわいわいとしているほうが目についた。こういうイベント事に対して、涼真はいつも冷めた気持ちで見ている。その理由を問われれば、自分には縁のないイベントだからとしか言いようがない。


 だけど隣の翠はどうやら違うらしい。


「来たね、この日が」


 翠から並々ならぬやる気を感じる。


 バレンタインデーといえば女子から男子にチョコレートを贈る日だ。翠には意中の相手がいて、それで張り切っているのかもしれない。そんな相手がいることに少し胸がもやもやするが、その中にもしかしたら自分にチョコレートをくれるのではないかという期待もある。


「チョコレートの安売りデイだよ。チョコレートはこういう日に買いだめしておくに限る」


「バレンタインをチョコレートのセール期間扱いしてる⁉」


「なにを隠そう私は甘いものが好きだからね」


「まあ知ってるけど」


 どうやら人にあげる気はないみたいだ。


 ホッとすると同時に、少し残念でもあった。


 それから翠と売り場を巡って、色んなチョコレートに目を通す。普段は売っていないような珍しいチョコレートがたくさんあった。ハート型とか星型はわかるけど、惑星を模したチョコレートまであってビックリする。涼真が思っているよりもチョコレートの世界は奥が深いのかもしれない。


 特に買うつもりはなかったけど涼真は思わずいくつかのチョコレートを買ってしまった。


 デパートを出る。


 公園を見つけて、ベンチに座る。


 二人で買ったチョコレートを見せ合いっこをする。一緒に列に並んで買っていたのだからお互いがどんなチョコレートを買ったのかは知っている。それでもショーケース越しに見るのと実物を見るのでは全然違う。


「それどんな味? ちょうだい」


「やだよ。自分で買ったんだから自分で食べるよ」


 手に持っているウイスキーボトルの形をしたウイスキーボンボンを、涼真は隠すように翠から遠ざける。


「えー」


 翠が頬を膨らめて抗議する。


「じゃあ、交換しよ。どれか好きなの選んでいいよ」


「交換、まあそれなら」


 涼真が目を付けたのは、三層に重なったハート型のチョコレートだった。ミルクとホワイトとイチゴの三種類の味が一度に楽しめる。


「これだね。はい」


 翠がハートのチョコレートを摘まんで涼真の口に近づけてくる。思わず口を開けてそれを受け取る。


「私のハートあげちゃった」


 少し上目遣いに翠がそんなことを言う。


 悔しいけど、甘かった。

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