第11話 めい探偵のめいは名かそれとも迷か
街路樹に挟まれた帰り道で、翠が顎に指を当ててすべてを見透かしたような表情をしていた。
「この中に犯人がいる」
彼女はそう呟く。
周囲に人はおらず、この場にはもちろん涼真と翠の二人しかいない。
この中に犯人がいる、と言う人物は探偵であり、ならば探偵である翠は犯人ではないだろう。であれば状況的に見れば犯人は一人しかいない。
「俺……なのかな」
涼真はがっくりとうなだれる。
まさか自分が犯人だとは思わなかった。罪の意識でいっぱいだ。気が滅入ってますます頭がうなだれてくるが、よくよく考えてみると別に悪いことをした記憶はない。
「そもそも何の犯人?」
正直なにもわかっていなかった。
翠が犯人がいると言い出すまでになにか事件があったわけでもなく、さっきまで普通に談笑していたはずだ。
「思い返してみて」
言われたとおりに思い返してみる。たしか彼女は、通学カバンの中身をがさごそとやり始めたところですべてを見透かしたような表情をした。
この状況を推理すると、翠のカバンの中からなにかが無くなっていた。そして翠と接触していたのは涼真のみ。
つまり容疑者は涼真しかおらず、翠が犯人でないのであれば必然的に涼真が犯人となる。
「俺……なのかな」
やっぱり自分は犯人なのか。
最悪の気分だ。
だけどなにかを盗んだ記憶はない。
「ほらこれ」
翠が手に持っているものを見る。なにかの袋だ。それをまじまじと見つめると、コンビニで買えるお菓子の袋だった。袋の中身はたしかフルーツケーキだっただろうか。そういえば昨日、じゃんけんで買った方がお菓子を奢ると翠が言い出し、そして涼真が勝利した。
翠が悔しがりながら買っていたのがこのフルーツケーキだったはずだ。
翠は別れ際に渡すね、と言っていた。
果たしてこのフルーツケーキを渡してもらっていただろうか。
いや、そんな記憶はない。
渡してもらっていないのであれば、もちろん涼真が食べたはずもない。しかしフルーツケーキは無くなっている。これは誰かに食べられたということが推理できる。そしてフルーツケーキの袋が出てきたのは、翠のカバンからである。
「犯人は、君だったんだね」
犯人の存在を示唆するのは探偵である、という思い込みに涼真は踊らされた。今回の犯人はかなりの知能犯だった。強敵といえるだろう。
犯人、もとい翠は悲しそうでありながらもどこか晴れやかな表情をする。
「フルーツケーキの誘惑に耐えられなくて、つい、ね」
罪の告白は、彼女の背負っていたものを軽くしたのだろう。
寂しそうなその背中は、コンビニへと入っていく。そしてコンビニから出てきた彼女の手にはフルーツケーキが二つ握られていた。
「最初からこうしていたらよかったんだね」
フルーツケーキの一つが涼真に手渡される。袋を開け、二人で食べ始める。
過去の罪は消えない。
それでも今日に反省を活かすことはできる。
そんな事件だった気がする。
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