第7話 宇宙人との接触
「スパラダ、スパラダ、イーチアポイ。ユーフォーよ、我が前に姿を現したまえ」
小高い丘で、等間隔に並べられた石が円形を作っている。その中央で涼真と翠は二人で立ち、手を大きく上に掲げ、空に向かって呪文を唱えている。
「ほら、涼真くんも」
「スパラダ、スパラダ、イーチアポイ。ユーフォーよ、我が前に姿を現したまえ」
目的はもちろん、未確認飛行物体であるUFOを呼び出すことである。
誰かに見られていたら恥ずかしいなと思いつつ、それでもUFOが見られるのではないかという期待がほんのちょっとだけある。
「でもこれ、本当に合ってるの?」
翠に倣って呪文を唱えて大仰な動作をしているが、これでUFOがこちらに気付くのだろうか。っていうか呪文の意味がわからない。
「今朝、私の頭の中に流れてきた呪文だから間違いないよ。これはきっと宇宙人の交信に違いないね。動作は適当に合わせただけだけど」
「そんな電波なこと言う人だっけ?」
なんか今日の翠は様子がおかしいような気もするし、なんだかこれがいつも通りな気もする。
「石を円に並べたのは?」
「ぽいでしょ?」
「そんな理由⁉」
石を探すのに結構な時間を食ったのだが、まさかそれだけの理由だとは思わなかった。
呪文は適当、動作も適当、石を並べるのは雰囲気作り、こんなものでUFOが本当に現れるのだろうか。そもそもどうしてUFOを探そうとしているんだっけ。いつからこんなことをしているんだっけ。
いつのまにか陽も落ちかけている。
「涼真くん、ほら見て」
翠の指の先には、オレンジ色に染まった夕陽があった。
「夕陽がなに?」
「なんだか、ユーフォ―みたいじゃない?」
「全然違うと思うけど⁉」
やっぱりなんだか様子がおかしくないか。涼真は翠の肩を叩く。
「もう帰ろう。そろそろ暗くなるし」
「ほら、見てよ」
翠は、肩を叩かれても未だに夕陽を指さしている。そして、何度も涼真に夕陽を見るように促す。
「ほら見てよほら見てよほら見てよほら見てよほら見てよほら見てよほら見てよほら見てよほら見てよほら見てよほら見てよほら見てよ」
「あ、碧川……さん?」
違う。
これは、碧川翠ではない。
「ほら、見てよ」
翠がこちらを向いた。
その顔には目も鼻もない。ただ口だけ動いている。そして何度も何度も同じ言葉を繰り返す。
——ほら、見てよ
いつの間にか接近していた円盤型の巨大な乗り物が、翠の背後で恐ろしい光量を放っていた。それはまるで夕陽そのもののようだった。
「うわああああああああああああああああああああああああ‼」
「——っていう夢を見たんだ」
「ええ……」
涼真の夢の話を聞いて、翠が普通に反応に困っている。
「えーとじゃあ、今日はユーフォーでも探しに行く?」
「絶対に嫌だよ! しばらくはその単語も聞きたくない」
「…………ユーフォー?」
「やめてってば」
嫌がる素振りの涼真を、翠が面白い遊び方を見つけたと笑っている。
そのからかう姿はいつもの翠そのものだったが、もしかするとここはまだ夢の続きなのかもしれない。急に翠の顔から目も鼻もなくなるかもしれない。
そんなことを思うと不安になってきた。
「今の碧川さんは本物だよね」
「ええ~どうかなあ」
翠はにやにやと笑っている。
そんな表情を確かめるように、涼真は翠の顔を両手で挟み込みじっくりと観察する。
「ほえ⁉ え、え‼」
翠の顔が赤くなった。赤面する翠など見たことがない。これは本当に彼女なのだろうか。
顔が本物かどうかぺたぺたと確かめる。涼真はさらにじっくりと翠を観察する。至近距離に近づく。
「ってか待って。ちかっ、なに、するのさ。まだ早いってば!」
「いや確かめるだけだから」
「なにをして確かめるの⁉」
「目は本物? 鼻は本物?」
「いーやー‼」
今日は翠の心がかき乱される、珍しい日だった。
もうUFOはこりごりだと、涼真も翠も思った。
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