Act.5
Act.5-1
第九機関は、本部を持たない。任務に合わせて
今の《
門の脇に立つ守衛にボディチェックを受け、中に通される。直線状に伸びる長い石畳のアプローチには、外灯が等間隔に並び、重厚な扉の前まで
吹き抜けの
薄明かりに浮かぶ書斎。
仕立ての良いアッシュグレイのスーツに身を包んだ青年――《
「……〝女神の降臨を〟……?」
私たちの報告を聞いた《
「……何らかの暗示をかけられていた可能性が高いか……」
《
一度、唇を引き結び、小さく息をついて、《
「実は、この数か月のあいだに、《
「不審な死……?」
眉を
「元々は、別のチームが調査に当たっていた。先月、その調査を指揮していた《
その矢先に、今回の事件が起きた。
「記録によると、事の発端と考えられるのは半年前。一人の《
私たちの組織において、ひいては、この国において、自殺は決して珍しいことじゃない。あまりにもありふれていて、見飽きられてしまった悲劇の一幕だ。昔は自殺というだけでセンセーショナルに取り沙汰された時代もあったらしいけれど、今は余程の有名人でもない限り、報道もされない。メディアの倫理がどうとかじゃなく、単にもう、他人の自殺に心を動かされる人間は、この国には、ほとんどいないのだ。生きたがる人間が生きるのも難しい国に、死にたがる人間まで生かす余裕はない。
「次の事件は、数日後。《
だが……と、《
「三件目は、その翌週。任務の後、《
心臓が、
「私たちが任務に就いていた……倉庫の爆発も……?」
「おそらくは」
《
「決定的だったのは、調査を指揮していた《
「っ……《
耳を疑う話だ。《
「調査は、限られたメンバーで極秘に進められていた。《
「何者か……?」
「分からない。現時点で、第九機関は、完全に後手に回っている。仮に、敵から何らかの洗脳を受けた《
けれど……と、《
「
そう言って、《
「仲間を殺して自殺した《
第九機関の情報網は、公安を遥かに
「興味深いことに、彼らに不合理な行動は、ひとつも見られなかった。彼らは皆、事件を起こすまで、何の変哲もない日常を送っていたんだ」
洗脳を施すには、その場所まで対象を連れていく必要がある。だが、彼らに拉致された形跡はない。それに、叛逆者となった《
「それじゃあ……」
私は首を傾げた。不審な行動がなかったのなら、手掛かりは……? そんな私の疑問を感じ取ったのか、《
「そう。僕たちにとっては、何の変哲もない日常だった」
ぱさり、と書類を文机に置き、《
「人によって、日常は様々だ。起床して、食事をして、仕事をして、就寝する……それ以外に、どこまでを日常と見なすか。人によっては、ギャンブルかもしれない。セックスかもしれない。ただ、僕たちにとって、高確率で日常に組み込まれる行動がある……仕事による負傷で、病院に
常に命の遣り取りの
その病院に、敵が……?
「僕たちが治療を受ける病院は、組織が関与しているとはいっても、完全に組織の一部というわけじゃないし、そこで働くスタッフは、もちろん《
敵は、そのことに気づき、そこを突いた。
「叛逆者たちは皆、過去に、或る病院で、治療を受けた履歴があった。けれど……その病院を調査しても、不審な点は見当たらなかった。病院が、組織的に、一連の事件に関与していたわけじゃない。ならば、考えられるのは、スタッフだ。そこで、叛逆者の治療中に接触した、全てのスタッフを調べた。なかなか骨が折れたけれど、おかげで特定することができたよ」
資料の束の中から、《
一人の初老の男の、顔写真付きのプロフィールだった。
「……精神科医……」
「そう。……叛逆者たちは皆、入院中、主治医とは別に、彼の診察を受けていた。そして退院後、彼らは月に一度か二度の頻度で、定期的にカウンセリングに通っている。足跡を
私たち《
第九機関は、その組織力によって、外からの攻撃には鉄壁の防御を誇ったけれど、
「では、《
「うん。試みたのだけどね、駄目だった。一足早く、口を封じられていたよ」
でも……と、《
「敵が駒を始末したということは、僕たちがそれだけ敵に近づくことができているということ。そして、敵もそれに気づいているということだ。いつまでも後手に回っている僕たちじゃない。相手の眉間に、必ず〝粛清〟の銃口を突きつけてみせる」
ひらり、と《
「彼が出入りしていた先を洗い出し、疑わしい施設や団体を絞り込んでいたところだった。そして……君たちの報告を聞いて、浮かび上がった存在が、ひとつある」
《
「白
「……女神……」
私たちが相対した《
「教団そのものが敵なのか、それとも、教団の中に敵がいるのか、その見極めを、これから至急、行っていく。疑わしいからといって、教団の関係者全員を〝粛清〟するような、ホロコーストは僕の主義じゃないからね」
そう言って、《
「問題は、現時点で、組織の内部に、洗脳を施された叛逆因子が何人存在するかだ。過去にその病院で治療を受けた《
知らないうちに、私たちも調べられていたのか。私は思わず瞬きをする。
「君たちには、今後、この件で任務を受けてもらう。今は数少なくなってしまった、僕が《
よろしく頼むよ、と《
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