Act.4-2
錆びついたコンテナが
「……ポイントB、対象の現物を確認。《
「おつかれさまです。では、ポイントEの応援に向かってください」
「了解」
倉庫内の《
今回の仕事は、一言で言えば不正な武器取引の阻止だ。実際、私たちが確認した現物は、コンテナ一杯のライフルと弾薬。けれど、単なる銃火器の不正流通の取り締まりなら、第四機関――公安の管轄だ。では、なぜ私たち第九機関が動いたのかというと……これが軍からの横流し品で、公安は軍と手を結んで目を
軍も公安も、一枚岩じゃない。クーデターを
指示されたポイントEの倉庫は、二つ先のブロックにある。周囲を警戒しながら、私たちは銃を手に走る。
目的の建物が見えてきた、その時だった。
「っ、ルイ! 伏せて!」
割れた窓硝子の向こうで、光が膨れ上がるのが見えた。
とっさにルイの腕を引き、抱きかかえるように地面に転がる。
瞬間。
閉じた
金属片が転がり、木片が降り、トタンが舞う。
「ナキ……! 怪我は……っ⁉」
「平気! ルイは?」
「無事よ。……貴女のおかげでね」
ありがと、とルイは少し悔しそうに唇を引き結んだ。私は小さく微笑んで、首を横に振る。
「……爆発……」
体を起こし、炎に包まれた倉庫を見遣る。
銃撃戦の
「……ここは一旦、《
私たちに気づいた《
えっ……? と私は瞬きをした。いいの? この爆発に乗じて逃げる《
そんな私の疑問を、《
「この倉庫が、最後のポイントでした。貴女がたを含めて、全ての《
つまり、《
「貴女がただけでも、無事で良かった……」
唇を噛みしめ、《
栗色の短い巻き毛に
どれだけの《
「……あの爆発、どう思う?」
《
「んー、できれば、仲間を信じて……追い詰められた《
ここ最近、私たちの仕事は増えていた。第九機関を抜けようとした〝裏切者〟を〝削除〟する仕事。
「混乱に乗じて逃げようと考えたのは、《
でも、それを確かめることはできない。《
「……軍みたいに、ドッグタグでも持っていれば、照合できたかなぁ」
私が肩をすくめると、ルイは静かに言った。
「どうかしらね……裏目に出るかも」
「……だよねぇ」
空を
ドッグタグをつけたところで、身代わりに使う人間が続出して意味をなさないだろうし、〝
「……ただ」
呟くように声を落として、ルイは歩調を少し緩めた。
「ドッグタグがあればいいのにと、思うことはあるわ」
足を止める。
雲が切れて、月の光が射す。
ルイは小さく笑っていた。月の光がなければ見落としていたかもしれない、淡い微笑で。
「形見になるもの」
この世界に、生まれて、生きた、人間だった、存在証明になるもの。
「……ルイ……」
「
ルイが私の横をすり抜ける。
夜風に
第九機関の《
死ねば消える。生きていた痕跡は無になり、世界のどこにも存在していなかったことになる。
まるで、最初から、生まれてこなかったように。
「……形見かぁ……」
そっと、ひとつ、呟きを置いて、私はルイの隣に並んだ。
ねぇ、ルイ。
心の中で、話しかける。ルイに宛てて、でも、ルイには届かなくていい言葉を。
私たち第九機関の《
記憶が
でもね、ルイ。私は、さっきの話を聴いて、少し、夢をみたよ。
ばかみたいな夢。
ドッグタグをね、交換するの。
ルイのタグを私がもらって、私のタグをルイにあげて。
それで私が体を燃やして死んだら、ねぇ。
ルイは、私の形見を持って、〝
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。