第53話
病院食の余り美味しくないハンバーグ定食ではあるが、病院食の中では当たりの方で、日頃はもっと低カロリーな食事なのである。ダイエット中なら効果もあるかもしれないが、私はとりあえずそのようなものには興味のない肉食系なのである。どうしてそんな人間がこのような病院に紛れ込んだのかよく分からない。まあ、藤井さんのことが気になりだして精神的に病んでしまって、変な薬を飲んで、その薬が丸きり合わず悪化して・・・。
「精神科の出す薬でおかしくなって、精神科に入院なんてまるでマッチポンプじゃんか。」
自分がこんな病院に依存したのが歯がゆい。恨みというか。執着のようなものが湧いて出ては引っ込んで、自己嫌悪とも何とも言えないようなそんな気分に晒される。余り味のしないハンバーグ定食(と言っても病院食ではまだマシな方)タレも薄味で、病院と言っても精神科なんだから身体的な健康は関係ないような気もするのだが、もっとガツンとくる味にしてほしいものだ。
「調子はどう?」
犬がシッポを執拗に追うような、グルグル思考を毎度ながら繰り返して気が滅入っているときに、タイミング良く沙羅が病室に何事もないように入ってきたのだ。不思議に思うのはこの子はどうしてこんなにもあっけらかんとして、この暗い雰囲気のする空間に入ってこれるのだろうか。
「沙羅、丁度いいところに来てくれたよ。何だか気が滅入りかけていてね・・・。」
「ちょっと暇だったら、寄ってみたんだよ。何だか辛いね。」
そんなことを言いながら、もってきたラッピングされた小さな鉢植えを、私のベッドのすぐ横にあるサッシに置いてくれた。
「どう?いいでしょ。」
正直なところ、今の私には花なんて一つの物質に過ぎない。消しゴムや鉛筆と何ら違わないのだ。これは一体何故なんだろう。どうして、花を見て「美しい」「癒やされる。」と思うのだ。美しいと思えない心の状態が良くないのか。そんなことを思うとまたグルグル思考に苛まれていく。
抵抗は感じたのだが、思い切って聞いてみることにした。
「ねえ、沙羅・・・花は何故美しいし、心が癒やされるのかな?」
「う~ん。よく分かんない。そう言われてみると何でかなぁ?」
こう言ってはなんだが少し救われた気がした。沙羅も実際にはよく分かっていなかったのだ。
「でも、里莉凄いね。そんな難しいこと考えたんだ。」
「へぇ~私って凄いんだ。」
褒められたのは何年ぶりだろう。よく分からないけれど、気持ちがすっきりしてきた。
病室の窓から溢れてくるに日射にそれとなく目をやった。
「こんなにも美しかったんだ。」
完
その年の夏 正岡直治 @ix38anrdsk
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