第46話

 奥の手とはつまりこうだ。主治医が薬を減らすまではとても待てないので、自分で薬を減らすということなのだ。ただ、一気に減らすと離脱症状がでるのは、実証済みなのでその辺は慎重にならなければならない。「敵」の手の内はよく分かっている。以前、沙羅に頼んで買ってきて貰ったニッパーが役に立つときが来たのだ。別に犯罪行為をしているわけでもないのに何だか緊張する。ではまず手始めに雑魚である「ダパス」から攻略するか、しかしここで気をつけなくてはならいのは薬同士のバランスだ。ダパスばかり減らしすぎると雑魚とはいえ、影響が何となく怖い。

 そこで、このダパスをまずは半分にカットする。これを1週間続けて次の週は、1錠全部を減らす。こうやって素人ながら少しずつ減らしていくのだ。


 お医者からすれば「そんな危険なことは絶対にするな。」となるだろうが、こっちは薬でこんなにも苦しい思いをしているのに(飲めば副作用が出て仕事にも勉強にもならない。飲まなければ離脱症状で錯乱状態になるのではっきり言って社会生活が成立していない)のらりくらりと交わされているので、堪ったものではない。命に関わるのでそんな悠長なことは言っていられないのだ。まあ、医者からすれば薬漬けにすれば、儲かるのは間違いないので、そんな人を一人でも増やすことがひょっとして目的なのかも知れない。

 陰謀論と言われれば、其れまでかも知れないがやはり自分の頭で考えたい。明らかにこの状況はおかしい。そんなわけで、談話室でコソコソとニッパーで薬を割っていたら、後ろで人の気配がした。別に悪いことをしているわけではないのに「ドキッ」となってしまう。

 「何をしているんですか?」

 思わず口から心臓が飛び出そうにびっくりして、後ろを振り向くと、この前一緒に飲んだ若先生が、少し遠くから「ぼ~っ」としながら私の方に声をかけてきたのだった。

 「えっ、いや、あの・・」

 返事に困っていると

 「ははん、薬を割っているんですね。」

 「あ、いや、その・・」

 別にバレたところで悪いことをしているわけでもないのに、何だか変な感じはする。しかも、相手はお医者さんなので、何だか悪さをして見つかってしまった子どものような心境だ。

 「まあ、そんな薬、何の役にも立ちませんので飲まなくても構わないんですけどね。」

 医者なのに何とも意外なことを言うので、またしても驚いてしまった。

 「でも、急激にやめると離脱症状が出るのでくれぐれも気をつけてね。」

 「・・・ありがとうございます。このことは黙っててもらえませんか。」

 「勿論ですよ。」

 そう言って、若先生は忙しそうに何処かにまたどこかに行ってしまったのだ。


 「私の主治医も若先生だったら良かったのに・・・」

 

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