第45話

 「炭団先生ゲベタミンを持ってきました。ささ。飲んでください。」

 「飲んで。飲んで。」

 「グイーッといちゃいなよ。」

 変な盛り上がりを見せている。酒でもあるまいし。

 炭団は恐怖ですっかりへたれこんでしまった。

 「まあ、いいでしょう。」

 「あれ、若先生いいの?」

 「ほっとくと何するか分かりませんよ。」

 「まあ、この調子じゃあ何も手出しはできないでしょう。冗談ですよ。炭団先生」

 「ふえ~ん」

 原田さんも樋口さんもつくづくこんなのが主治医じゃ心許ないだろう。

  この若先生、何だかいいところあるな。上手く説明できないけれど、何だか人間味があるというか、何なんだろこの感じ・・・

 「ごめんね。折角の飲み会が中断し掛ったね。」

 「そんなことないですよっ!!」

 「おわびに、ちょっと待ってて、お菓子を持ってくるね。」

 「わ~い、うれしいな!!」

ここが精神病院と言うことを除いたら、普段、居酒屋で飲んでいるのと全く変わらない調子でみんな酒をガブガブ飲みまくったのだ。

 「沙羅、今日も泊まっていきなよ。」

 「うん、さすがにこれじゃもう帰れないね。」

 「いつものように、こたつに雑魚寝だけどね。」

 「でも、こんな感じ好きだなぁ~」

 なんだかんだいって精神病院に抱いていた当初の印象とはかなり違う。


 「たったのこれだけ!?」

 「はい、まだまだあなたは難しい患者さんなんだから。」

 今日は毎週の診察の日である。診察と言っても何のことはない、話を2~3分聞いて薬を決めるだけだ。今日も、ほぼほぼ自動的に

 「はい、それじゃお薬出しときますね。」

 全く減らす様子がないので・・・

 「もう、見ての通り状態はいいんだから減らしてください!!」

 「いやいや、まだその時期じゃない。」

 「いやいやそうじゃなくて。」

 こんなのが診察として成立するのかという根本的な疑問がわいてくる。


 結局今日の「収穫」は、夕方に飲むちっちゃな錠剤1粒だけだ。まだまだ、服薬をゼロにするにはほど遠い。あんな主治医の言うことを聞いていては、良くなるものも良くならない。今私が飲んでいる薬の中で、一番、強烈に強そうなのは「リボリタン」である。動物的勘で此奴は一番のラスボスなのだ。2番目が「ジブレンドン」こちらもまあまあ手強い。今回減ったのは勿論この2台巨頭ではなく、雑魚の「ダパス」である。しかも夕方の3錠中の1錠なのでほぼほぼ変わらないと言っても過言ではない。こんな調子だと、薬が完全に断薬できるまでに何十年もかかるし、その前に「薬漬け」で一生抜けられなくなったら手遅れだ。何かの本で「服薬期間が長ければ長いほど、脳がそれに適応してしまい。元に戻りにくくなる。」と書いてあった。


 「こうなれば、奥の手を使うしかない。」

 

 

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