第44話

 何だかよく分からない理由で酒を飲むことになった。私自身は酒を飲むのは好きなので別に構わないけれど、この人達はいつも酒を飲むための口実は何処かないか探し回っている気がする。

 「この生姜の佃煮は、はなちゃんの味がする。」

 炭団が原田さんの予想通りの発言をした。期待を裏切らないというか何というか。原田さんも樋口さんもこんな体たらくが主治医だと治る物も治らないのではと思うのは余計なお世話なのだろうか。ここは、病院の最上階にあるラウンジだ。ラウンジと言っても入院患者が焼き物茶碗作り体験とかで使っているので、何となく泥まみれである。しかも、畳敷きのスペースもあって何故ここをラウンジというのかがさっぱり分からない。

 まあ、飲めればいいのだが・・・

 「炭団先生。あなたは少し妄想があります。加えて依存症の兆候も見られます。」

 若先生が絡んでいった。

 「君は、研修医の分際でこの私を診断するのか!」

 炭団は若先生に対してやけに上から目線だ。

 「はい、炭団先生は所謂恋愛依存です。間違いありません。」

 「・・・」

 炭団の目から光る物がポタリと落ちた。

 「は~い。1曲歌いま~す!」

 そうなのだ。今日は飲み会があると言うことなので、「宴会部長」の沙羅を呼んだのだ。

 「沙羅、何を歌うの?」

 「そりゃ勿論、演歌でしょ!」

 「いよっ!沙羅の18番だね!!」

 「心を込めて歌いまぁ~す。」

 「なぜあなたは私の元から去ったの・・・♪」

 炭団の目からまた一つまた一つポタリポタリと涙が溢れた。

 「私のこの熱い想い何処にやればいいの~♪」

 サビに入ると炭団の目から出る涙は「ダバ~」と既に大川の氾濫のようになっていた。

 私も、不覚にも何だか泣けてきた。

 「あなたは私の『掛け替えのない人』なの~♪」

 私の『掛け替えのない人』は一体誰なのだろう?

 どうせ、「掛け替えのない人」とは、ほど遠い場所にいるのだろう・・・

 

 すると


 「炭団先生。お薬を処方します。ゲベタミンです。」

 突然、若先生が炭団に言い放った!

 「何、あの飲む拘束衣と呼ばれる。最強にして最悪の精神薬と呼ばれている『ゲベタミン』をこの私に!!研修医の分際で!!」

 「しかも、あのゲベタミンはあまりにもキツいので処方が禁止されたのではないか?」

 「いいえ、先生ご存じないのですか?何と『ゲベタミンαネオ』というのが出たのですよ。これは効きます!!こちらは飲む拘束衣どころではありません。飲むドラキュラの棺桶と呼ばれています。」

 「そうです。鋼鉄でできたドラキュラの棺桶のごとく、先生を動けなくすることができます。先生はこのままだと、あの女子高生に危険を及ぼす可能性が捨てきれません。先生に、この薬を飲んでいただくことが世の中の平和の為なるのです。」

 「だとすると、この私は一体どうなるのか?しかも、私は只泣きじゃくっただけじゃないか。しかも、その薬は安全なのか?」

 「今更、何を先生おっしゃるのですか。医師が出す薬に危険性があるわけないではないですか。先生もよくご存じの筈でしょ。先生は只気持ちよくなるだけなので安心してください。」

 「そうだよ。炭団、みんなのためにも飲まなきゃいけないよ。」

 原田さんと樋口さんが煽る。


 「ひ~ん。こわいよ~。」

 「この薬は何しろ、かの塔強大学理科Ⅷ類から医学部に行かれ、首席で卒業された○○教授の考案されたお薬です。それを危険な薬だとおっしゃるんですね。偏差値80越えのお墨付きに逆らうわけですね。」

 医者はどうやら権威には弱いみたいだ。理屈なんて何処にも見当たらない。言い方は悪いが此奴らは、一体何のために勉強というものをしてきたのだ。自分で考えるためじゃないのか?


 そう言えば、ふと思い出した。今ADHDとか子どもの発達障害が顕著になってきているらしい。そんな子がやはり色々な意味から薬を飲むことを進められるらしいのだが、これもやはり「周囲の子に迷惑をかけられない。」という無言の圧力から親は飲ませざるを得ない事もあるようだ。ゲベタミンほどではないにしろ、やはり中枢神経に作用するような薬を飲むのは怖いというのが人情ではなかろうか・・・。


 「ねえ。里莉、塔強大学って何かおかしくない?」

 沙羅が酔いも入ってかニヤニヤしながら聞いてきた。

 「私も塔強大学に行きたい!」

 「でも、沙羅80越えだよ。」

 

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