第41話

 「それじゃあ、また来るね。」

 「それじゃあ沙羅また来てね。」

 原田さんと一緒に沙羅を見送った後、またいつもの談話室に戻る。段々、ここの生活にも慣れてきた。言い方は悪いかも知れないが「ぬるま湯」だ。実際、他人からこの言葉を言われるとぬるま湯処か熱湯を浴びせかけられたような気分になるのだが。部屋に戻りのそのそこたつに入る。日々の生活がかなりマンネリ化してきた感はある。

 ・・・が、いつの間にかこたつの上にサツマイモが置いて有るではないか!

 原田さんと二人できょとんとそのサツマイモを見つめて、スイートポテトでも作りましょうかね。誰が持ってきたなんぞどうでもいいことである。早速流しに芋を持っていって調理に取りかかる。

 「芋を切って、水にさらしてレンジでチン!」

 あっという間に大学芋とスイートポテトの出来上がり。

 周りにいた人にも振る舞って、全員食べ終わり、ささやかなお芋パーティーは無事終了した。

 そこへ、炭団がやって来た。

 「炭団のは、もうないよ。」

 原田さんが、これまたつっけんどんに言うのだ。

 「えっ、何?何がないの!?」

 「いえ、別に・・・」

 「そんなことより、ここに置いてあったサツマイモを知らない?僕が患者さんからもらって、家で食べようと思っていたんだけど・・・」

 「さぁ・・・」

 「へんだなぁ~確かここに置いといたような気がするんだけどなあ。」

 何とも、タイミングの悪い男である。女の子がこんなにもいるところにサツマイモを置いておく方が悪いのだ。

 炭団は肩を落としながら診察室に消えていった。そんなにあのサツマイモが心残りなのか?

 「ははん、さっきのサツマイモは莉子ちゃんからもらったものかも知れないよ。」

 原田さんが言った。

 「莉子ちゃんて?」

 「ここの患者さんだよ。炭団が主治医なの。談話室にもたまに来るよ」

 大方見当は付いた。自分の担当患者の莉子ちゃんのことが炭団は好きなのだ。

 「そう言えば、高校生くらいの清楚でとても可愛い子だよね。」

 炭団でなくとも、惚れてしまいそうである。なんでも、その子のおばあちゃんが畑をしていて、どうやらそこで取れたサツマイモをあの子がレジ袋に入れて、差し入れとして持っていくところを偶然原田さんが見ていたそうである。

 「ふうん、なるほどね。」

 「なんでも、噂によると診察の時でもタジタジになっているらしいよ。」

 どうやって、それが分かったのか気にならないわけではないのだが、女の情報収集能力は改めて凄いと感じざるを得ない。

 恐らく、初めてもらった好きな子からの「プレゼント」だったのだろう。炭団が少し可哀想な気もする。

 「炭団、大丈夫かな?」

 「恐らく」

 まあ、精神科の医者の精神状態を患者の立場で診察するほど図々しくはないのでこの辺りでやめておく。

 「僕が君のことを治してみせるよ。」

 何てことを炭団が言っているのだろうか。何だか痛々しいの極みのような話でむず痒いのである。

 

 炭団はあきらめきれないのか、また談話室にやって来てウロウロしている。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る