第40話
かなりいい感じで出来上がってしまった。
すると、ちょっと離れたところで炭団が
「へそ踊りをはじめま~す。」
とんでもないことを言い出した。
原田さんまで
「いよ~待ってました!」
誰か止めるものはいないのかと思って、少し酔いも覚めかけたのだが
沙羅までが
「いよ~日本一!!」
言い出す始末である。
炭団は、いつの間にか自分のでっぷりと肥えた腹に見事な口を描いている。朝出かける前から仕込んできたのだろうか?しかし、それでは汗でドロドロになるような気もするのだが、トイレに行ったときにでも描いたのか。どうでも良いようなことを気にしながら、このおぞましい芸を見ることになった。なお、悪いことに歌まで歌うというのだ。この感じだと歌も聴けたものではないだろう。
・・・と思っていると
これがまた、以外と上手いのだ。
オペラ歌手のような美声で会場を圧巻した。さすが医者である。何処かの外国の難しい歌を英語で軽々と歌ってのけたのだった。
みんながすっかり出来上がり、宴もたけなわになったのでそろそろあの山奥の病院に戻ることにする。
「沙羅それじゃあね。」
「里莉、何だか寂しいね。」
「そんなら、一緒に病院に来る?」
「えっ、いいですか?」
「いいわよ。ねえ先生。」
「談話室に、こたつがあるからそこで雑魚寝したらいい。」
いつの間にか原田さんまですっかり沙羅と打ち解けて、何だかよく分からないが沙羅も一緒に戻ることになった。
さすがの炭団もお酒を飲んで運転するわけにはいかないので、帰りはタクシーで帰ることになった。ある意味ホッとしたのは言うまでもない。
「へえ、ここが精神病院なんだ。」
沙羅は初めて来たらしく珍しがっている。
起こしてはいけないので静かに病院の裏口から入ることにする。談話室に戻ると、ソフトバレーに行かなかった人たちが、スマホをしたり漫画を読んだりしていた。
「ただいま~」
「楽しかった?」
「うん。」
通り一遍話をして沙羅のことを紹介した。
「いらっしゃい。何もないけれどのんびりしていってね。」
「ありがとうございます。」
「あそこにあるコーヒーとか紅茶とかお菓子もつまんでいいよ。」
「わ~いありがとうございます!」
丁度酔いを覚ましたい気もしたので、二人で紅茶を入れることにした。原田さんも今日は飲みすぎたのか、こたつに入ったまま寝てしまっていた。
本当にこの空間は老若男女関係なく雑魚寝をしても全然気にならない。普通なら若い女の子の隣で中年の親父が寝ているなんてあり得ないのだが、ここはみんな寛容なのだ。それでいて、変な事件も起こりそうな気配がない。
沙羅が
「何だか、ざっくばらんとしていて気兼ねがないね。」
「そうなんだよね。」
こたつに入って紅茶とお菓子を食べながら少し懐かしい話をした。
「私も、早く元気になって大学に戻るからね。」
「待ってるよ。里莉」
栗きんとんの入ったまんじゅうを食べながら久しぶりに短大の懐かしい話をしたのだった。
「そろそろ寝よっかな。」
沙羅がそう言うので
「わたしも。」
二人でこたつのそばに座布団を何枚か敷いて寝ることにする。
一応、自分達の病室はあるのだが、ほとんどの人は何故だかこの談話室でゴロンとなってそのまま寝付くのだ。
「何だか、合宿の時を思い出すね。」
「そうだね!」
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