第38話
「今日は午前中、○○体育館でソフトバレーの企画がありますが行く人いますか。」
スタッフの人が、談話室に聞きに来た。
「あ、はい行きます。」
「あ、僕も。」
「私も行ってみようかな。」
何となく、行く人が出てきた。行かない人もいるようだが、それはそれで一向に構わない感じ。
私も何となくたまには外に出たいと思っていたので
「私も行ってみていいですか?」
「勿論です。行きましょう!」
と言うわけで、10時にロビー前に集合することになった。
ここの、談話室に来て感じたことなのだがここにいる人は、特定の誰かと派閥を作る感じが全くないのだ。誰々とは仲がいいが、誰々とは全然口も利かないと言うことがそう言えばない感じがする。だから、盛り上がることもない。本当に気のいい人たちばかりなのだ。
ロビーをウロウロしていると・・・
うだつの上がらないような男がこれまたウロウロしている。
「何処かで見たような・・・」
思い出した。私が初めてこの病院に救急車で運ばれてやって来たときに、私に罵声を浴びせかけたあの「藪医者」だ。
「こんな所にいたとは・・・」
随分と当たり前だが、まさか一緒にソフトバレーに来るんじゃ有るまいかと少し気になる。
「あの人ここのお医者さんですよね。」
原田さんにそれとなく聞いてみた。
「へえ、里莉ちゃんよく知っているね。」
あの人はやはり所謂「変わり者」と思われているようで、診察の時でも、突然怒り出したり、急に優しくなったりすることがあるらしい。
「私も実は怒鳴られたことがあるの。今はもう慣れちゃったけど・・・」
なんでも、自分の治療方針に少しでもそぐわないようなことを言うと途端に機嫌が悪くなるらしい。医者に医療のことで口を挟むつもりは余りないが(一応専門家なので)しかし、あの離脱症状だけはなんとかしてもらわないと困る。自分の主治医があの「変わり者」でなかったのは不幸中の幸いである。
・・・がしかし
悪い予感は当たるものである。あの藪医者が車に乗って現れてきた。それで、その車に乗り込んで○○体育館まで行くことになったのは、今更言うまでもない。
久しぶりに山を下りれるので少し気持ちも晴れやかではあるが、どんな綺麗な紅葉の景色を見ようとも、この藪医者が運転していると思うと何となく熱帯に生えている食虫植物のようなグロテスクな変なものに見える。おまけに運転も中々危なっかしい。谷底に転げ落ちるのではないかと何度もヒヤヒヤした。この藪医者と心中なんて死んでも死にきれない。
これなら自分で運転した方が遙かにマシだ。
地獄のようなドライブを満喫して、ようやく街中にある○○体育館に到着した。今更、ソフトバレーもないだろう・・・。
ヨタヨタと車から降りて、体育館に入っていく。何となく暗い雰囲気のロビーだ。すると、あの藪が
「おうい、みんなこっちだよ~。」
車の中では全く話をしなかったので、あんなにフレンドリーに話しかけるなんて夢にも思わなかった。
「あれ、何かよく分からないけど、話しやすいおっさんじゃん。」
イメージがガラッと変わる自分も自分だがと思いつつ、あの救急車で運ばれたときのイメージがあまりにも酷すぎたので、何だか混乱しているのか180度違っていることは確かである。
あの原田さんも
「熊田先生~。」
なんて、やけに親しそうである。
しかし、油断はできないかな。何処かにひょっとして「地雷」が隠されているかも知れない。
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