第34話

 薬を飲まずに今の状況を何としても打破しないとならない。母も今頃になって事の重大さに気付いたようだ。

 「里莉ちゃん。お母さん取り返しのつかないことしちゃったね。」

 母がこのような言葉をこぼすようになり、私自身としては、母は私のためを思って精神科受診を勧めたのだから、これ以上自分を責めないで欲しいとも思うのだが、今の状況は現実的に取り返しのつかないところに来ている。毎日、這いつくばるような生活を強いられて、いつこの体の状態が好転するのかもさっぱり分からない。


 最近では、寝ていたら急に舌をかみ切りたくなる衝動に駆られる。というか、勝手に体がそうなってしまうのだ。そして、もう一人の自分が必死になってそれを止めようとしている。厳密に言うとそれが本来の自分なのだが・・・。何だか脳みそがテロリストにハイジャックをされたように操縦不能に陥っている。


 体がかなりメチャクチャになっているが、それでもなお復活の可能性を信じて、できることをしている。しかしよくよく考えてみると、そんな復活の可能性を考えること自体が、うつ病などの症状であれば無理なはずなのではないか?そんなことを思うと自分が果たして精神病であったかどうかすらも疑問がある。

 そう言えば、先日図書館で入院施設のある精神病院の特集を有る雑誌がしていた。症状がとてもよくなったという事例も沢山合ったようなので、そんな所に短期間入院すれば良くなるかも知れないと思って、電話番号をメモして家で電話をしてみることにする。


 ところが

 「あいにく、当院は満床です。何とか頑張って生きてくださいね。」

 このような返事ばかりである。

 担当の人がもの凄く私のことを心配してくれているのが、電話の向こうの口調で伝わってくる。まあ、私も這いつくばりながら必死の形相でかけているので、無理もないのだが・・・

 しかし、これほどまでに何処も満床とは思わなかった。入院施設のある精神科に行くということは、通院よりも状態が悪いということである。

 「世の中、こんなに精神を病んだいる人がいるなんて・・・」

 「日本もおしまいだ。」と感じる。


 何軒かけても、満床だと言われるので最後ののぞみを賭けて、以前、救急車で運ばれた、あの病院に電話をかけてみることにした。すると、事務の人が出て・・・

 「ちょっと調べてみますね。」

 と言ってくれた。暫く待って・・・

 「一つだけベッドが開いているそうです。来られますか?」

 実は余り気乗りはしないのだが

 「はい、明日伺いますのでよろしくお願いします。」

 と言って電話を切った。

 あまりよい病院ではないような気もするのだが、背に腹は代えられない心境で仕方なく決めたというのが本音だ。

 ベッドで仰向けになって天井を眺める。この、天井をもう幾度となく見てきた。でも、明日からはあの病院の天井だと思うと何だかやるせないものがある。すぐにでも退院して、また元気になって、短大にも復学したいし、吹奏楽もまたみんなとできるのであればやりたい。

 「あの感じだと藪医者ばかりの精神病院かも知れないが、看護師には感じのいい方もいたし、そこに一縷の望みを賭けてみるか!!」

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