第33話

 私が苦しんでいる原因はネットで調べたところ、精神病に使われている薬の所謂「離脱症状」と言うものらしい。飲んでいた薬を急にやめると覚醒剤などと同様、禁断症状がでる。それと似たようなものだとも言われている。しかし、毎日手を変え品を変えて襲ってくるこの「離脱症状」の怖さを何故にもっと注意喚起(アナウンス)をしないのか。考えただけでも腹が立つ。「鬱は心の風邪」という軽いキャッチフレーズだけは流行らせときながら・・・。患者を偉そうに叱る前に、こんな重要事項に対する「説明責任」はきちんと果たしていないじゃないか、医療業界こそ襟を正すべきである。


 そんなことを、幾ら言っても相手は権威のある医者、頭もいい。こちらは、精神を病んでしまった一患者に過ぎない。勝ち目は全くない。そもそも、精神病というのはあまり世間には言いたくないので、このような悲惨な状況になっている人が色々なところにいたとしても、社会問題としては浮上しにくいような気がする。

 

 今日も色々な症状に悩まされながらの1日が始まる。手や足が勝手に震えたり、捻転したりする。かと言って元のように一日に14錠も薬を飲むのはもっと嫌だ。ここは苦しいけれど薬の離脱症状が治まるまで耐え忍ぶしかない。医者にこの話をしてもとぼけて、

 「何ででしょうね~。薬変えてみましょうかね~。」

 等という始末なのである。

 最近では、自分が大学生だったと言うことも少し忘れかけてきた。ただ毎日を死なないために生きている感じ。季節の変化もぼんやりしている。

 「そろそろ、夏になる頃かな。去年の今頃は楽しかったな~。自分の新しいフルートを買おうと思ってバイトを始めた頃だったなぁ。」

 そんなことを考えながら、薄暗い部屋で天井を見つめながら、まだ去年のことなのに気の遠くなるような昔のようだ。

 「あの人は今何しているんだろう。」

 未だに、駅まで送ってもらったほんの少しの時間がまばゆくて、堪らなく悲しくなるのだ。それがいまでは目に見える風景が全てグレースケールという有様で、今まで見えていた風景と悪い意味でまるっきり変わってしまっている。最近は、ほぼ寝たきりで立ち上がって歩くこともままならなくなってしまった。それでも、調子の良いときには母に車で図書館に連れて行ってもらっている。本を読みながら少しでも自分の調子が上向きになって、フルートをみんなと合奏したい。このままでは、し損じたことが多すぎて死んでも死にきれない。そんなことを考えている最中でも、薬の離脱症状と思われるおかしな症状に見舞われる。「すーうっ」と谷底に落ちていく例の感じだ。これが現れるとしばらく、逃げ場もなくじっとしていなければならない。何度味わっても慣れることもないこの苦しみが一日に2~3度現れる。所謂パニック発作というものだろうか?それとも違う気もするが、兎に角、脳が誤作動を起こしているので、自分の意思ではどうにもならない。元の処方に戻したらひょっとしたら、眠気は来るかも知れないが、今の地獄のような状態からは回避できるかも知れない。しかし、それは駄目だ。また薬漬けになってしまうと、余計に体が薬なしではいられなくなるような気がする。今は薬の影響を体から排除することが大切なのだと思う。

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