第23話

 「そっかぁ。だったら沙羅も辛い思いをしたんだね。」

 「そうなんだよ!もう信じられない!」

 「そうだよね。それは信じたくなくなるよね!」

 「なんだか、最近の里莉ちょっと変わった?」

 「えっ!何が?」

 「何かこう、うまく言えないんだけど。大人が子どもをあやす感じというか・・・」

 「そうか。そう思うんだね。」

 「・・・」

 しめしめ、上手くいったぞ。この前買った本で実は勉強したのだ。カウンセラーの基本は共感的な態度。沙羅も何となくそれを感じたらしい。そろそろ種明かしをするか。

 「沙羅、実はね!じゃじゃ~ん。」

 「何その本?」

 「タイトル見たら分かるでしょ!私カウンセラー目指すんだ!」

 「カウンセラー!?」

 沙羅に、藤井さんがカウンセラーで自分も将来カウンセラーになって少しでも近づきたい事などを切々と語った。密かに沙羅を練習台にして、自分がカウンセラーになったつもりで、クライアント(相談者)にできるだけ共感するような言葉がけをしてきたつもりなのだ。

 「なるほど、そういう訳か。頑張ってね里莉。」

 「でもね。カウンセラーって独立して開業するのって結構大変みたいなんだよね。」

 

 黄昏時、大学からの帰り道、二人で夢中になって話していると、いつの間にやら駅前のロータリーまで歩いてきていた。

 「私なんてまだ、将来何になるか、漠然としちゃってて・・・もうすぐそこなのにね。いつの間にか大人になっちゃったんだ。」

 「でも、まだまだ遠い道のりなんだ。無謀というか・・・」

 私の通っている学科は映像学科、カウンセラーとは余り縁がない。今更だけど、心理学科とかにしとけば良かったと後悔をする。しかし、今通っている大学をやめて別の大学に入り変えるような行動力はないので、この大学を卒業して、何とかカウンセラーの資格を取りに行くしかない。

 

 頭の中ではカウンセラーになって、藤井さんが経営しているカウンセリング事務所に見習いとして入って、それから・・・等と少し妄想も入っているかも知れないが自分の将来像を心に描いている。

 自分の性格からして、そうでもしなければ藤井さんに近づくことができない。「同業者」になることが、今のところ唯一あの人に近付く方法なのである。このようなよこしまな考えで、将来を決めて良いものかどうか疑問だが・・・


 明日はバイトがある。またあの人と会えるかもしれないと思うと、人恋しい寂しい季節ではあるが、嬉しい。西の空にうろこ雲が、夕日に照らされて、何処か儚げにキラキラと輝いている。秋の日はつるべ落としなので、今こんなに綺麗でも、日はストンと落ちて辺りはすぐに真っ暗になる。


 意味もなく底が見えないような深い寂しさに苛まれるのは何故なんだろう。寂しさを通り越して怖いような暗闇だ。

 



 

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