第21話
「4時頃かな?」
お酒を飲んだときの「お約束」で変な時間に目が覚める。そうすると、その後は決まって悶々とした時間を過ごさなければならない。沙羅は隣でよだれを垂らして寝ていた。こんな呑気な姿を彼氏にも見せているのだろうかと余計な心配をしながら、飲んで言っていた時のあの逞しさは何処かに行って、元の小心者に戻ってしまっていた。
沙羅を起こすのも気の毒なので、とりあえず布団の中で黙って過ごす。
声を殺して叫び声を上げたり、焼き芋のようにゴロゴロ転がったりしながら、耐えがたい2時間程度を過ごすと沙羅が
「ムニャムニャ」
起き出した。
「里莉、おはよう。昨日は結構飲んだね!」
「そうだね沙羅。ところで今日、授業1限からあるって言ってなかった?」
「あ、まずい。」
「私、一度家に帰らなくちゃ。」
「そうなんだ。なら、私も一緒に出ようかな。」
とりあえず顔をバシャバシャ洗って、簡単に化粧を済ませて、二人で駅に向かった。朝日が前の方から差し込んできて、まぶしいけれど、どこか清々しいのだ。そう言えばもう8月ももうすぐ終わり、朝が涼しくなった。空のかなり高いところ、ちぎれたような雲が風で流されていく。
プラットホームで電車が来るのを待つ。
「沙羅、何だか涼しいね。もう夏も終わりだね。」
「うん。いつの間にか人恋しい季節になっちゃったね。」
「うん。」思わずため息がこぼれた。
発車ベルに気付いて二人慌てて、電車に飛び乗った。
「電車いつの間に来てたの?」
「さあ?二人ともまだお酒が完全に抜けてないね。」
二人して笑った。
夏の終わりにいい飲み会ができた。そして、電車からのいつもの眺めを見ながら、今年の夏は今までにないような夏だったなと振り返る。
「何だか私変わっちゃった。」
この夏休みを挟んで、気がついたら戻ることができない処にたどり着いてしまったような、寂しさを感じる。こんな思いを何度も何度も繰り返しながらでないと、大人って成れないの?
「『恋』っていつ何処で誰にってほんと分かんないね。」
「ホント、落とし穴みたい。」
まんまと落ちた私を穴から救ってくれるのはあの人だけ。もはや自分には、どうすることもできない。
二人とも今日は授業があるので、二日酔いになりながらも、何とか授業は受けなければならない。この前、入学したばかりだと思ったのにもうすぐ半年かと思うと、時が経つのは早い。後、1年半で卒業なので、やはり自分なりに何かスキルを身につけなくては、と気持ちが焦る。
1限目が終わり、2限目はないので図書館に行くことにした。さして理由はないけど、お金もかからなくて座っていられるからだ。あたりかまわず適当に本を取ってはパラパラめくり、戻すという落ち着きのない行動をしていることに気づき、少々恥ずかしい。私は一応清楚系で、できる女を目指しているのだが、アルコールが完全に抜けていないのか、どうも挙動不審だ。
何気なく、取った本にふと目が留まった。「セラピストを目指して」と題名に書いてある。セラピストって、確かカウンセラーの事だ。
「カウンセラーってどうやったらなれるんだろう?」
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