第20話
「さて、かんぱ~い。」
「この前の合宿の時は沙羅に飲ませてもらったから、今日は沙羅がしっかり飲んでね!」
「は~い。でも里莉も飲んでよ!」
「わかったよ!」
なんだかんだ言いながら、さっき村田さんからもらってきた魚を早速刺身にして、酒盛りが始まった。お互い注いだり注がれたりしながら沙羅も段々気分が良くなり
「大体ねえ、今の社会がー。」
何だか、説教臭くなってきた。これはかなり飲んでいる証拠だ。
「私はねぇ~。やっぱりねぇ~。あれはおかしいと思う訳ですよ!」
「まあ、そうだね。」
「でしょ。私の言ってること間違ってないよね!」
沙羅はもはやビールでは、もの足らなくなっている頃である。しゃべり方も何処かおかしい。ここは一つ、煽ってみることにする。
「ねえ、沙羅。それっビールを注ぐよ。グイーッとイって!」
「う~ん。そうだねぇ・・・」
「あれぇ、まさかもう飲めないの?」
「そうじゃなくてさぁ~」
「だったら何?まさかウーロン茶?」
「いやいやいや絶対あり得ない!」
「分かってるわよ!冷酒でしょ!」
「そうそう待ってました!」
身も蓋も何もない、しょうもなさ過ぎる会話を繰り返す内に夜も更けてきた。
何だか最近、酒を飲んでもふと我に返ってしまう。私のしている恋って、よくよく考えてみたら、前提として実現が不可能なことなんだ。そんなことを深く考えたら恐ろしくて悲しくて半狂乱になりそう。沙羅に相談したくとも今の沙羅じゃとてもじゃないが相手にはならない。
と思っていると・・・
「ねえ、里莉。藤井さん奪うしかないよ。ここまで思い詰めたら、それしかないでしょ。」
「う~ん・・・」
もし、奪うことができたとしても、藤井さんの家族はどうなるのか。この前会ったあの中学生くらいの子から父親を奪うことになる。そんなことはとてもできない。でもそれと引き換えに私は死ぬほどの悲しみを味わわなければならないのか。それもどうなのか。最近このぐるぐる思考にはまって抜け出せないときが多々ある。好きになること自体が間違いなのか。愚かななのか。そんなことを誰も言う権利はないはずだ。
「沙羅、私一体どうしたらいいの?」
「こうなったら、こっそり行くしかないね。」
「こっそり!?」
「秘密裏にいろいろするって事よ。」
「どんなことするのよ?」
「食事とか。旅行とか。・・・兎に角、何か理由を付けて会うんだよ。」
「なるほどね。ばれなきゃいいわけか。」
「そうだよ。簡単なことだよ。」
確かにバレなければ誰も傷付けることなく、幸せな時間を過ごすことができる。
確かに良心の呵責はあるが、自分のかけがえのない人と分断される訳にはいかない。だって今の私にとっては親よりも大切なんだもの。
「決めたよ沙羅。私こっそり会うよ。」
道徳なんかどうでもいい訳ではないが、この件に関しては道徳の方が間違っている気がする。
「そう来なくっちゃ。里莉頑張れ!」
「さぁ。決意表明を兼ねて、里莉グイ~ッとやっちゃって!」
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