第16話

 今日は久々のバイトだ。お土産のまんじゅうを手さげに入れて家をでる。まんじゅうにしたわけは、藤井さんは恐らく40はとうに過ぎていて、若い人向けのクッキーよりは渋い感じもするし喜ばれるのでは、と感じたからだ。我ながらいい選択だったと自負している。

 しかし・・・少し気になったので、一旦立ち止まって、まんじゅうを手さげから取り出し、箱の横に印字してある期限を見てみる。

 「え~っと」

 ・・・消費期限8月26日、あと3日しかない。


 「どうしよう。その間に藤井さんが来なかったら・・・」

 自分なりには一生懸命に考えたつもりなのに、何処かが抜けている。私にとってはよくあることなのだが、ガクッとなってしまう。しかもそれが大好きな藤井さんのことと思うと、余計に・・・。

  

 「何だか最近、気持ちが乱高下するだな。さっきまでは意気揚々に家を出たのに、もう今はこの世の終わりが今すぐにでも来て欲しいくらい落ち込んでしまう。」


 駅で、しょんぼり電車を待っていると沙羅から着信があった。とりあえず、渡りに船だと思い電話に出てみる。

 「沙羅ちょうどよかった。実は話したいことがあるんだお。」

 「何?どうしたの?」

 「それが・・・」

 「まんじゅう?・・・それが何かまずい?」

 「だからさ・・・」

 「なるほどね。賞味期限が3日しかないから、その間に藤井さんが来てくれなかっ   

  たら食べてもらえないということね。」

 「どうしよう。」

 「それは、少し難しい問題だね。」

 「電車が来てしまったから、またかけるよ。」

 「分かった。何か良い方法があったらメールするね。」

 「ありがとう。助かるよ。じゃあね。」


 沙羅と話したら気持ちが少し軽くなった。とりあえず、バイトに遅れるわけにはいかないので、電車に乗り、まんじゅうを膝においてぼんやりと外を眺める。

 「何で、私ってこうなんだろう。」

 そんなことを思っていると沙羅からメールが来た。 

 「藤井さんとこの前話してて、そのまんじゅうを藤井さんが大好きだと聞いたので  買ってきたと言うことにすれば良いかも。」

 なるほど、そうか。そうすれば、おばあちゃんが藤井さんに連絡を取ってまんじゅうを取りに来てくれるかも知れない。なかなかこれは妙案だ。


 なんとなく安心感を取り戻し、店の中に入るとおばあちゃんがちょうど奥から出てきて出迎えてくれた。

 「いらっしゃい。久しぶり。合宿どうだった?」

 「あ、はい。まあ、なんとか頑張って練習してきました。」

 「そう、よかった。」

 「あの、おばあちゃんこれお土産です・・・」

 「まあ、そんな気を使ってくれなくてもいいのに。」

 「おまんじゅう。おいしそうね。」

 「・・・」

 「あ、そういえば、これ孝行さんが好きって言ってました・・・」

 「へえ、孝行がねぇ・・・」

 「・・・」

 今のおばあちゃんの受け答えからすると、藤井さんはまんじゅう余り好きじゃないのかも知れない。どうしよう。でも・・・。

 「・・・孝行さんにも、是非食べて欲しいんです!」

 「そうなのね。じゃちょっと連絡取ってみましょう。きっと喜ぶと思うよ。里莉ちゃんのこと、感じの良い子って言ってたから。」

 「あれ、どうかしたの?」

 「あ、いえ、何でもないんです。ちょっとトイレ行ってきます。」

 

 嬉しさと不安が考察する・・・

 

 

 

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