第14話

 「『カバレリア・ルスティカーナ』じゃなくて『カヴァレリア・ルスティカーナ』です。」部長の藤野さんが念を押す。発音の微妙な違いがあるらしいのだが、余り気にしなくても良いのでは、とも思うけれど、せっかく教えてもらうのだから「V」を意識して発音をする。


 この曲はイタリア〈シチリア地方〉を舞台にした歌劇の中で使われている曲で、その歌劇の内容というのが、付き合っている二人がいて、そのうち彼氏が兵隊となり、戦地に行って、その間に彼女の方は別の男と結婚をして、兵隊から戻ってきた彼氏もまた別の女と婚約をするものの、しかし元々付き合っていた二人はお互いを忘れられなくて、逢瀬を繰り返すというものらしいのである。


 今の私とどこか通じるところがあるようなないような・・・言えることはどちらも一筋縄ではないということである。そこ以外はまるきり違うのだが。


 なんかよく分からないけれど、愛とか恋とかというものは元来上手くはいないようにできているのかも知れない。

 この曲、割と難しく生半可な練習では、上手く演奏できそうにない。

 しかし、藤井さんが恋しいという思いも重なり、練習にも気持ちが向いてきた。


 「心を込めて演奏したいな。」


 そんな思いが、いつの間にか自分の胸の奥底の深いあたりから、静かにではあるが芽生えてきた。

 夕日が、窓を伝わる穏やかな日射しが、誰かを慰めるようにレースのカーテン越しの窓から差し込んでいる。

 

 今日は、最後の晩なので各パートとも練習を早く切り上げ、全体で通し練習をした後、バーベキューをしながら花火をすることになっている。沙羅と二人で「買い出し部隊」をかってでた。ついでに、お酒とつまみの補充も買ってくるので少し大荷物にはなるのだが、二人で話もしたいし、体もなまってきているし、散歩がてらにちょうど良い。


 「いってきま~す。」

 「重いかも知れないよ。大丈夫?」

 「大丈夫、大丈夫!」


 夕日も済んで、空が青白く暗くなりゆく頃、二人で足早に買い出しに行く。何だかよく分からないけれど、とても楽しい気分。

 合宿所であるペンションからそれほど遠くないところに、大きめのスーパーがあり、花火もお酒もつまみも気合いを入れて沢山買い込んだ。

 帰り道、標高の高い清里は、日が陰ると涼しい感じがする。遠くに連なる山々がシルエットになって美しい。

 「人を好きになるってやっぱり素敵だね沙羅。」

 「そうだね。里莉が元気になってよかったよ。」

 

 ペンションまであともう少し。


 「今日の気持ちには、どんな花火が似合うんだろう?」


 

 

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