第7話

 今日から、3泊で吹奏楽部の合宿が始まる。新幹線で東京まで出て、それから、新宿まで中央線で行ってから、新宿から小淵沢まで、特急で3時間位かけていって、そこから小梅線に乗って、かなり乗り換えをしながら行く感じだ。朝からやけに暑く、プラットホームで買ったお茶をガブ飲みして、やっと一息ついた。


 バイトでお金もまあまあ貯まった。以前なら楽しみだったであろうこの合宿も今は何かこう、空しいというか、心ここにあらずという感じ。むしろ早く終わって  

 「また、バイトに行きたいな。」


 「何で、こんなこと思うんだろ。」とぼんやり車窓を見ていると、沙羅がひょいと、話しかけてきた。

 「どうしたの。里莉あんなに楽しみにしてたのに、何かぼんやりして、流離ってるみたい。心ここにあらずって感じだよ。」

 どうしてこの人は、こうも勘が鋭いのか。それとも、私が余程分かりやすいのか。確かに言われたことは図星なので、少々恥ずかしい。

 何だか頭の中がグチャグチャで自分でも情けない。


 「いや、別に『東京って都会だなぁ。』って何となく思っただけ。」

 我ながら、かなりいい加減な返事をしてしまった。

 「ふうん。」

 新幹線は、都内に入って、さっきまではぶっ飛ばしていたのに、速度をかなり落とし在来線と併走をしている。電車に乗っている人、駅で待っている人が意外と近くに見える。あくまで、近くに見えると言うだけで、世界は全然別のような気がしないわけでもないが、この人達は今から、どこに行って、どんな用事があって。どんな人生を送っているんだろう。藤井さんも学生時代に東京にいたって言ってたな。どの辺りに住んでたんだろう。恋人とかいたのかな・・・ダラダラと考えても仕方のないようなことを考えてしまう。もう数分でこの雑踏の中に自分達も一時的とは言え、あちら側の世界に溶け込んでいくと思うとなんとも言えない気分になる。

 都会の人はそこに住んでいるだけで本当に凄いなとつくづく感じる。

 

 遠くにスカイツリーが見えた。

 あの近くに浅草寺があって、さらにその近くのアイスクリーム屋さんで抹茶アイスを食べたのを思い出す。

 どうも、自分の小さい頃の思い出はアイスを食べたことが多い。それは、食い意地が張っていると言うより、やはり夏の暑い季節に行くことが多かったからなのか。


 「早く帰りたいな。」

 まだ到着すらしていないのに、そんなことでどうするんだ。


 

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