第3話

 帰り途中、新幹線の駅のあるこの辺りではまあまあ大きな街があるのだが、下車してまで何かを見たいわけでもないので、そのまま通り過ぎる。一度降りると、次の電車まで1時間以上も待たなければならないのでかなり疲れてもいるし、寄る理由はない。実はこの駅、この3月まで私が通っていた高校の最寄り駅でもあった。私の通っていた高校はこの辺りではまあまあの進学校で、友達も都市部のまあまあ有名な大学に行く子が多かった。貨物線を隔てた、向こう側に真っ暗になった校舎がぼんやりと見える。


 間もなく電車が私の自宅の最寄り駅に着く。駅からは、中学のときから使っている自転車をエッチラオッチラこいで家まで帰る。かなりボロボロではあるし、型も古いのだが、気に入っているし買い換えるつもりはない。自宅周辺は「漁師町」と言うほどではないにしろ小さな魚市場があって、朝方は漁に出る船のエンジン音で結構騒がしい。夜はコンビニが2軒あるだけで他は何もなく、真っ暗だ。少し以前まではファミレスも1軒あったのだが、客が余り来なかったせいか、閉店してしまった。


 帰り途中にあるコンビニで、何か甘いものでも買って帰ろうかと思って、自転車を止め、中に入る。バイトをしている訳でもないので、小遣いを貰うだけの身で少し恐縮はするが、グミには目がないのでついついいつも買ってしまう。考えようによったら、都会で仕送りをするよりは、比較的学費も安い短大だったので、自分は遙かに金もかからず「親孝行」という考え方もあるのかと思うのだが。


 家に着いたら、午後11時を過ぎていた。夕飯が食卓に置いてあったので、食べようかと思ったのだが、最近ダイエットを意識してか、ご飯は少し残して、野菜を中心に食べようと思う。だったらグミはどうなるんだという話もあるのだが、そこは別ということで・・・これを聞いたら母さんは腹を立てるだろうな。


 すると、タイミングよく父がやって来たので、ご飯を差し出し

 「『父さん食べる?』ていうか『食べて!」」と言ったら

 事情を察してか、しれっと食べてくれた。父は私の言うことなら全部聞いてくれる。おそらく今も自分が帰ったのを聞きつけて、何となく気になって降りてきてくれたのだろう。小さかった頃は、親より遅くまで起きているなんて事は考えられなかった。いつの間に逆転してしまったのだろう・・・。


 何もときめきもなく、今日も一日が終わった。

「小学校の頃から生活リズムは余り変わっていないな。でも、来年は二十歳か。」

 若いようで、確実に歳を取っていくことを最近何となく感じてきた。「子ども」だった自分はもういない。周囲からも大人として見られるような人間にいつの間にか、本当にいつの間にか成っていた。連続する毎日の積み重ねで人間こうなってしまうのだな。昨日と今日では、ほとんど変わらないのに、ほとんど変わらない日々の連続でこうまで変わり果ててしまうのだ。


 しかし、胸がときめくようなことは、子どものときから、相変わらずなんだ。

 周りの人はどんどん変わっていったのに・・・。

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