第5話-①
両腕を拘束され、足は鎖に繋がれた。鎖を引かれるままにアレスは歩く。
「なんのつもりだ。
「はっ、とぼけるつもり?」
鎖を引くのは少女の姿をした天使だ。少女は鎖を引き、アレスを
「上位天使を集めてある。今日こそアンタの罪を暴いてやるわ」
「罪とは、はて」
(どの話だろうな)
とぼけたように首を傾げれば、アルテミスに苛立ったように鎖を強く引かれてつんのめる。ざらりと鼓膜を撫でる鎖の音は星屑のようだった。
空にそのまま
アルテミスがこうしてわざわざ狭い道を歩いているのは、大方アレスを
さておき、アルテミスはそのまま進むと、一つの巨大な白い扉の前で立ち止まった。
「さあ、入りなさい。罪人アレス」
アルテミスが仰々しく扉を開くと、大理石の床の中央の大きな円卓が目に入る。壁には主神アガスターシェの与えた奇跡を描いたとされる絵画がある。
ここは天界の会議室だ。彼女の言うとおり、既に他の上位天使は揃っていた。
「揃ったようですね」
二人が着席すると、代わって一人の女性型天使が立ち上がった。
天使長、統治と統一の天使、
「
「はぁい♡」
アレスを連れていた時とは一転し、アルテミスはくるりと猫撫で声を出して立ち上がる。彼女は天使長にぞっこんなのだ。
「主神の
芝居がかった口調で、少女型の天使は語り始めた。彼女の語るに、曰く。
普段は天界の周辺の空域の魔物を倒す任務を担っている天使、第六階位アレス。しかしこの彼、天界にとっては問題児である。
たまに帰ってくれば、しょっちゅう
(まぁ、心当たりがないではないな)
アレスはよくもまぁ覚えているものだと、半ば感心すらもってアルテミスの言葉を聞いていた。
小火を起こしたというのは、第七か第十あたりに付き合って魔法の訓練をさせられた時の話だろう。厨房に忍び込んで茶菓子ひとつでもくすねて帰ろうとした時にうっかりオーブンを暴走させた時の話かもしれない。主神への信仰心は実際にないし、天使長についても同様だ。女湯の覗きについては、時間もわきまえず長風呂しているアルテミスのほうが悪かろうとは思うが、発言が許されていないため黙りこくるほかなかった。
アルテミスはこうしたアレスの罪状をつらつらと並べ立てたあと、ひときわ明らかな声で言った。
「極めつけは、
「なんと」
「……本当っすか?」
これにはさすがにざわめきが広がる。第四階位イレーネが息を飲み、第七階位プロメテウスが怪訝な顔で問い直す。
「ええ、本当です。……
「魔法の説明もしてもらったほうがよろしいかもしれません」
「はぁい」
第五階位アルテミスと第一階位ユノに促され、小柄な天使が「よいしょ」と言って立ち上がる。ふわふわとした白い髪に、まどろむような灰色の瞳の上位天使。
「じゃあ、私が開発した魔法――大結界について説明しようかな。結論から言うと、天界の周りにめちゃ強い結界を張りまぁす!」
フォボスはゆるりと告げるが、結界魔法は魔法のなかでも難度が高い。疑問を持ったらしき第七階位プロメテウスが手を挙げる。
「どの程度、魔物の侵入を防げる見込みですか?」
「誰も彼も通さないってわけじゃないかな。効果は下級の魔物のみ。まぁ、七割くらい? あと、防ぐんじゃなくて、そのまま削り切って倒す魔法だよ。すごいっしょ」
「すごいもなにも……」
第七階位プロメテウスが静かに息を飲んだのが、アレスにも伝わった。普段インテリぶった彼女がこうして素直に驚くのは珍しい。
「あり得ない、偉業です。誰にも成し得ない」
「でしょ。もっと褒めてぇ!」
「……しかし、第六。その設計書を燃やすとは……」
プロメテウスの発言は、アルテミスにとっては追い風であったようだ。畳みかけるように彼女は言う。
「魔物の真に厄介な点は群れるところです。上位種の数匹しか立ち入らぬのであれば、わたくしや
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