第19話

「もう、そこまで……」

 その日の夜、水に浸かっているケーニワベレを見て、アーセタは声を上げた。

 樹皮はもう、彼の胸を半分以上覆い、足も太腿はすでに樹皮と化していて脹脛まで侵蝕している。腕も肘から上はすでに樹皮になっていた。

 青年は自分の体を見て誇らしげに、だがその中に一縷の悲しみを含んだ儚げに微笑んだ。

 そんな表情を見るのは始めてだったため、アーセタは少し愕いた。

「今日も頑張ったでしょ?」

 だが、垣間見せた儚げな表情を消して、青年は誇らしげに問い掛けてきた。

「うん。お疲れ様」

 アーセタが労いの声を掛けると、青年は嬉しそうに笑った。

「今までもこのくらいの治療はしてきたけど、ここまで樹皮になるのが早いのは始めてだ。

 この町にはそんなに遠くない過去に、暴動とか戦争とか、大きな争いがあったみたいだね。人の負の感情が蔓延している」

 タオルで体を拭きながら、青年がぽつりぽつりと小さく囁いた。

「そういうことも分かるの?」

「うん。憎悪や憎しみが渦を巻いていると、なにかに触れられているような感覚があるんだ。

 それも浄化しないと、ああ言うものは精神が弱った人は引き寄せる。そして、怨嗟に取り込まれた人たちは違う人を取り込み、取り込まれた人は負の感情が倍増化されて死に足を向ける。

 だけど、怨嗟に取り込まれた人たちは実はそんなことは望んでいないんだ。

 彼らが求めているのは魂の救済。だけど、負の感情は彼らから本当の願いさえ奪っていく。

 自分たちの本当の願望さえも忘れて、ただただ、人を死に至らしめる。

だから、誰かが、そう僕が、救済してあげないとね」

生きている人だけではなく、アーセタの知らないところで死者まで助けていたのだ。

この町の暴動は有名だ。大きな町だから戦争になれば狙われるし、デモも良く行われている。

そんな場所なら、人の苦しみも悲しみも怒りも溢れているだろう。

彼に言えば、「こういう町だから僕が必要だ」と、微笑みを浮かべて言うだろうが、アーセタはこの町に来たことを後悔していた。

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