第18話

「見て、アーセタ。綺麗だよ」

 治癒の時間を終えて、二人で家への帰り道、道端に並ぶ露店で立ち止まり青年が言った。

「なに?」

 アーセタも足を止めて露店を見ると、宝石のアクセサリーを売っていた。

 指輪にブレスレット、ネックレスにイヤリングやピアスなどアクセサリーなら一通りあった。

「お揃いでなにか欲しいな」

 装飾品などに興味がないと思っていたため少し愕いたが、お揃いでなにかを持つと言うことはアーセタも賛成だった。

「じゃあ指輪……がいいな……」

「指だと、力を使うときに外さないといけないから、僕はネックレスが良いな」

「じゃあ、ネックレスにしようか」

 青年の意見を尊重して、二人はお揃いでサファイヤのネックレスを買った。

 家に帰ると早速着けて、二人で微笑みあった。青年の体は、日に日に蝕まれていく。

 アーセタこんな日が一日でも長く続くことを願った。


「ケーニワベレ。ケーニワベレでどうかな?」

「うん? なんの話?」

 夕食を終えた後の二人で寛いでいるいつもの時間、アーセタの提案に青年は首を傾げた。

「あなたの名前だよ。この町の伝承に出てくる精霊の名前だよ。世界を救ったんだって」

 アーセタは青年に凭れかかったままで微笑みを浮かべて囁くように言った。

「ケーニワベレか……。うん。それにしよう」

 アーセタの考え付いた名前を、青年は微笑んで賛同して大きく頷いてくれた。

 それから、青年、いやケーニワベレは教会でもアーセタの着けた名前を、町人たちの前で発表し、それは町の人たちの間でも瞬く間に広まった。

 その日を境に、青年を救世主などと呼ぶものものはいなくなった。

みんなケーニワベレと名前で呼ぶようになり、それに比例して堅苦しい扱いも口調もなくなっていって、町の人たちとも打ち解けていった。

 青年を中心に人の輪が出来て、町から重病人患者はいなくなり、活気と笑顔で溢れていた。

 そして、それは青年がこの地に滞在する必要がなくなったことを意味している。

 体を駆使して、精神をすり減らして、人のために尽くしても、感謝をされる頃には次の町へ移動しなければならない。

見返りを求めない救済運動。それはとても素晴らしく、彼に似合っている活動だが、それなら疲れ切った彼を、樹木になる運命から逃れられない救世主を、誰が救済してくれるのだろう。

(私がずっと傍にいるよ。それしかできないけど……)

 満面の笑顔を浮かべる町の人たちに囲まれて、微笑んでいる青年を見て、アーセタは内心でそう誓った。

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